ICDの一次予防のエビデンスと本邦および欧米のICD適応の現況

植え込み型除細動器(ICD)は当初,心室頻拍(VT)あるいは心室細動(VF)の既往がある患者の再発予防(二次予防)として植え込まれていた。その後,MADIT, MADIT IIでは虚血性心疾患患者(ICM)の一次予防の有用性が示され1,2),SCD-HeFT では虚血性,非虚血性心筋症両方を含む心不全患者での一次予防の有用性が示された3)。さらにメタ解析の結果では,非虚血性心筋症に対するICDによって死亡率は31%低減した4)。これらの研究を基に,虚血性心疾患や拡張型心筋症(DCM)などの非虚血性心筋症においても,心不全症状を呈する低心機能例ではICDの一次予防の植え込みが突然死予防に有用と考えられている。
 本邦の「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)5) 」では疾患別にICDの適応がまとめられているが,虚血性・非虚血性心筋症患者の適応については,左室機能低下および非持続性心室頻拍(NSVT)がみられるものがクラスIのICD植え込み適応条件になっている。

また,欧州のEU-CERT-ICDコホート研究では,ICM/DCM患者で一次予防の適応のある[NYHA II/III度かつ左室駆出率(LVEF)≦35%あるいはNYHA I度かつLVEF ≦30%]2,247名を解析した結果,一次予防のICD治療は,共変量調節後の死亡率を27%低下させた6)。また,2022年の米国心臓病学会,米国心臓協会,米国心不全学会による3学会合同「心不全管理ガイドライン」では,NYHA I~III度,LVEF≦35%で1年以上の予後が見込める患者ではICD植え込み一次予防のクラスI適応となっている7)
 このように,欧米ではNYHA I度の患者にもICDの一次予防が広がっており,電気生理検査でのVT/VF誘発性が選択基準から外れつつある。

本邦の一次予防としてのICDのアンダーユースの懸念と一次予防で植え込まれたICDの適切作動

CHART-2研究のサブ解析では,NYHA II〜III度の慢性心不全患者かつ虚血性心疾患あるいは非虚血性拡張型心筋症2,778名(虚血性心疾患 80.9%)を抽出して,EF 35%/NSVTの有無でGroup A, B, Cに分類した。日本循環器学会「不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版)」(以下,「JCSガイドライン2011」)のICD植え込み基準でクラスIに相当するGroup Aでは30.4%,クラス IIaに相当するGroup Bでは6.6%のICD植え込みにとどまっていた8)。その一方で,Group A,Group Bの致死性不整脈イベントに対するリスク(Group Cを対照)はそれぞれ 9.89倍および4.95倍と高く,ガイドラインによるリスク層別化の妥当性も示されたと考えられる。CHART-2研究の多くは虚血性心疾患であり,心不全を合併した虚血性心疾患患者での一次予防のアンダーユースが懸念される。

JID-CAD研究は,本邦における虚血性心疾患患者の一次・二次予防のICD植え込みと予後の実態を調査するために計画された。「JCSガイドライン2011」をもとにICD, CRTを植え込まれた20歳以上の虚血性心疾患の患者392人を登録し,369人でフォローアップデータが得られた。一次予防群でも二次予防群と同程度に,2年で約20%の患者でVT/VFに対する適切作動がみられていた(図1 9))。また,Nippon Storm研究に登録された患者のうち493人の虚血性心疾患患者をプロペンシティースコアでマッチさせた一次予防,二次予防で133人ずつにおいて解析を行うと,JID-CAD研究の結果と同様に一次予防群,二次予防群でのICD適切作動率は同等であった 10)

図1 JID-CAD研究での一次予防,二次予防のICD適切作動率
図1 JID-CAD研究での一次予防,二次予防のICD適切作動率
(Kabutoya T, et al 9)より引用)

これら2つの研究の結果からは,虚血性心疾患患者で本邦のガイドラインに沿って適切に植え込まれた一次予防患者では,二次予防患者と同等のVT/VFイベントがあったことが読み取れる。虚血性心疾患患者の一次予防において,今後もガイドラインに沿ったICD植え込みが推奨される傍証であるといえる。

適応患者の同定・介入のタイミングをどのように考えるべきか

上述のJID-CAD研究で,全体の2年間生存率は90%程度と,MADIT-RIT研究と比較して明らかに勝るものではなかった。以前の本邦からの報告では11),MADIT II診断基準に合致する本邦の虚血性心疾患患者の予後はさほど悪くないものであったが,JID-CAD研究の患者群はその研究と比較すると若干高齢でNYHAクラスが高い。より若年でNYHAクラスが低い虚血性心疾患患者に一次予防のICDが入れられていない可能性が考えられる。
 上述のように,低心機能患者の中でも特に虚血性心疾患患者において,海外,本邦でも一次予防の有用性が示されていることから,ICDの一次予防の適応を積極的に考える必要がある。

ICDの添付文書の多くは適応についてガイドラインに準ずることとなっており,本邦のガイドライン上,ICD植え込みの一次予防のClass I 適応はNSVTが必須になっている。まずはICDのクラス I適応となる低心機能でNSVTのある患者にICDの適応を検討することが必要であろう。器質的心疾患を対象にした,本邦のJANIES研究でもNSVTは2.46倍の独立した死亡の予測因子であった12)ICDの一次予防の目的である突然死予防の点から考えると,適応がある患者に植え込みをするのであれば早ければ早いほどメリットがある。虚血性心疾患,非虚血性心筋症で低心機能の患者では,まず至適薬物治療をできる限り早期にしっかりと導入したい。左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)に適応となるfantastic 4 (β遮断薬・MRA・ARNI・SGLT2阻害薬)のうち,ARNIやSGLT-2は比較的新しい治療で,適応があるのに導入されていないケースは多い。
 また,至適薬物療法をきちんと導入した上で,ICDによる突然死の一次予防の適応と考えたら,一度ホルター心電図は施行したい。また,低心機能患者では入院中のモニター心電図でNSVTのチェックを行うこともできる。至適薬物治療を導入してもLVEFが十分に改善せず,ホルター心電図でNSVTがあれば,そこでICDの一次予防を検討するのが適切なタイミングではないかと考える。

心不全パンデミックとHFrEF:高齢心不全患者における心臓突然死をどう予防するか

人口構造の高齢化に伴い,心不全患者は増加し続けており,心不全パンデミックとも表現される(図2 13))。10~20年前と比較すると高齢者の心不全入院が増えていることは多くの循環器医が実感していることであろう。

図2 増え続ける本邦の心不全患者
図2 増え続ける本邦の心不全患者
(Shimokawa H, et al 13)より引用)

高齢者心不全の特徴として左室駆出率が保持された心不全(HFpEF)が多いが,虚血性心疾患患者も多い。JCARE-CARDレジストリでは入院歴のある心不全患者を対象としており14),80歳以上の高齢者は虚血性心疾患が多く拡張型心筋症が少なく,LVEFが比較的保たれていた。JID-CAD研究とNippon Storm研究は,一次予防患者の年齢はともに平均70歳程度であった。心不全パンデミックの時代においては,HFrEFの患者を診た場合に,できる限り早くfantastic 4を中心とした薬物治療を行うとともに,1人でも多くの突然死を防ぐために,特に虚血性心疾患患者では一次予防のICDの検討を行うことをお勧めしたい。もちろん高齢者ではADLや社会的環境などが個々により大きく異なり,ガイドラインでは適応内であってもICDの適応は患者やその家族とよく話し合うことが必要である。