熊谷浩一郎氏(福岡山王病院) |
【3月18日】
心房細動患者における脳卒中予防療法としては長年ワルファリンが用いられてきたが,2011年にトロンビン阻害剤ダビガトランが発売され,今年1月には第Xa因子阻害剤リバーロキサバンの製造販売が承認された。現在,第Xa因子阻害剤は他にapixaban,エドキサバンの開発も進んでおり,選択肢は今後さらに増えると予想される。このような状況を受けて「Controversy 4 ワルファリン vs 新規抗凝固薬」(座長:新博次氏,犀川哲典氏)と題したセッションが企画され,活発な討論が行われた。
ここでは,2番目に登壇した熊谷浩一郎氏(福岡山王病院)による第Xa因子阻害剤の特徴についての発表内容を紹介する。
1. わが国におけるワルファリンの評価
3. トロンビン阻害剤:経験知の蓄積
4. 薬剤の選択はリスク・ベネフィットのバランスを配慮
●抗凝固療法のUnmet Medical Needs
熊谷氏がワルファリン服用患者(100人)を対象に行ったアンケート調査では,ワルファリンの服用で嫌なこととして「出血が心配」,「食事制限がある」,「定期的な血液検査」の順に多くの回答が挙がった。逆に新薬に期待することとしては,「出血の副作用が少ない」,「食事制限がない」,「1日1回1錠」,「血液検査が不要」といった,嫌な点を解消する内容が多く挙げられた。また,医師が期待する理想的な抗凝固療法としては,「モニターのための検査が不要」,「治療域が広い」,「個体差が少ない」などが挙げられた(循環器内科 2010, 68: 377-85)。
●第Xa因子阻害剤の特徴
作用機序をみてみると,第Xa因子阻害剤は凝固カスケードにおいて共通経路の入口の第Xa因子を選択的に阻害することでトロンビンの生成を抑制する。一方,トロンビン阻害剤は共通経路の最終のトロンビンの活性を直接抑制する。したがって,第Xa因子阻害剤はすでに生成されているトロンビンの活性に対して影響を与えないため,トロンビン阻害剤に比べて止血機能を温存しているのではないかと考えらえる。
また,第Xa因子阻害剤のバイオアベイラビリティは50~100%と,トロンビン阻害剤の6%に比べ高いこと,腎排泄率が25~66%とトロンビン阻害剤の80%に比べて低いことも特徴として挙げられる。
第Xa因子阻害剤による心房細動患者の脳卒中予防については以下の第III相臨床試験が行われている。ここでは用量調節ワルファリンを対照薬として行われた試験を紹介する。
●リバーロキサバン
ROCKET AF(N Engl J Med 2011; 365: 883-891)
・対象患者:CHADS2スコア≧2の心房細動患者14,204例
・ワルファリンの目標PT-INR:2.5,範囲2.0~3.0
・有効性主要評価項目(脳卒中/全身性塞栓症):ワルファリンに対し非劣性
・安全性主要評価項目(重大な出血事象または重大ではないが臨床的に問題となる出血事象):ワルファリンに対し非劣性。頭蓋内出血を抑制
わが国では日本人を対象に用量を減量して日本独自の試験J-ROCKET AFが行われた。
J-ROCKET AF
・対象患者:CHADS2スコア≧2の心房細動患者1,280例
・ワルファリンの目標PT-INR:<70歳 2.0~3.0,≧70歳 1.6~2.6
・安全性主要評価項目(重大な出血事象または重大ではないが臨床的に問題となる出血事象):ワルファリンに対し非劣性。消化管出血,頭蓋内出血の発現率はワルファリンの約半分
●apixaban
ARISTOTLE(N Engl J Med 2011; 365: 981-92)
・対象患者:CHADS2スコア≧1の心房細動患者18,201例
・ワルファリンの目標PT-INR:2.0~3.0
・有効性主要評価項目(脳卒中/全身性塞栓症):ワルファリンに対し優越性
・安全性主要評価項目(ISTH出血基準大出血):ワルファリンに比べ抑制。死亡率を抑制
●エドキサバン
ENGAGE AF-TIMI 48(進行中)
・対象患者:CHADS2スコア≧2の心房細動患者21,105例
・有効性主要評価項目(脳卒中/全身性塞栓症)
現時点(2012年3月)では,第Xa因子阻害剤はわが国ではまだ発売されていない。熊谷氏は多くの臨床使用経験がないことを断ったうえで「第Xa因子阻害剤はワルファリンと同程度,あるいはそれ以上の有効性,安全性を有し,食事制限がない,定期的な血液凝固モニタリングが不要など,また1日1回もしくは2回の固定用量といった利便性にすぐれる薬剤と考えられる」と講演を結んだ。
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