抗血栓トライアルデータベース
home
主要学会情報
テキストサイズ 
HOME > 主要学会レポート
第76回日本循環器学会学術集会(JCS 2012) 2012年3月16〜18日,福岡
Controversy 4 ワルファリン vs 新規抗凝固薬
トロンビン阻害剤:経験知の蓄積
2012.4.5
小松 隆氏
小松 隆氏(岩手医科大学)

【3月18日】

心房細動患者における脳卒中予防療法としては長年ワルファリンが用いられてきたが,2011年にトロンビン阻害剤ダビガトランが発売され,今年1月には第Xa因子阻害剤リバーロキサバンの製造販売が承認された。現在,第Xa因子阻害剤は他にapixaban,エドキサバンの開発も進んでおり,選択肢は今後さらに増えると予想される。このような状況を受けて「Controversy 4 ワルファリン vs 新規抗凝固薬」(座長:新博次氏,犀川哲典氏)と題したセッションが企画され,活発な討論が行われた。

ここでは,4番目に登壇した小松隆氏(岩手医科大学)によるトロンビン阻害剤,第Xa因子阻害剤の問題点およびワルファリンと新規抗凝固薬の使い分けについての発表内容を紹介する。小松氏はワルファリンをファーストチョイスとするという立場から講演を行った。

 1. わが国におけるワルファリンの評価
 2. 第Xa因子阻害剤:大規模臨床試験から得られた安全性・有効性に利便性が付加
 3. トロンビン阻害剤:経験知の蓄積


●トロンビン阻害剤の問題点
RE-LYの結果から,ダビガトランは消化管出血発症率がワルファリンより高く,注意が必要と考えられる。また大出血リスクとしてはワルファリンとほぼ同様で,高齢,腎機能低下例,抗血小板薬併用例で上昇する(Circulation 2011; 123: 2363-72)。わが国における市販後調査によると,重篤な出血事象が発現した138例のうち60%は1ヵ月以内に発現している。その後も持続して発現しているため,継続的な観察が必要である。

●第Xa因子阻害剤の問題点
ROCKET AFでは,治験薬を1回以上投与された集団の治験薬投与下における解析ではリバーロキサバンのワルファリンに対する優越性が認められたが,投与中止後にその優越性は消失した。これはリバーロキサバンからワルファリンに切り替える際に脳卒中/全身性塞栓症イベントの発症率が上昇したためと考えられ,イベント発症例の半分が切り替え後2週間,残りは4週以内に発生している。実臨床ではリバーロキサバンからワルファリンに移行するとき特に注意が必要である。

また,ROCKET AFのサブ解析(Circulation 2011; 124: A16903)では大出血の予測因子として年齢,女性,拡張期血圧上昇,消化管出血の既往などがあげられ,ダビガトランのリスク因子と同様となっている。さらに,J-ROCKET AFでは,抗血小板薬併用例で出血事象の増加がみられた。

●新規抗凝固薬の問題点
以上から新規抗凝固薬の問題点をまとめると,腎機能障害例,高齢者での使用に注意が必要であること,凝固モニタリングのチェックが必要であること,飲み忘れによる効果の低下が速いこと,薬剤費が高いことなどである。新規抗凝固薬にも適切な使用が必要と考えられる。

●現時点でのワルファリンと新規抗凝固薬の使い分け
ワルファリンは長年使用されてきた有益な薬剤である。PT-INR治療域内時間(TTR)が良好であれば生命予後も良好であり(Arch Intern Med 2007; 167: 239-45),TTR 60%以上を担保できれば,75歳以上の高齢者,抗血小板薬併用例,消化管出血既往例,腎機能障害(クレアチニンクリアランス30~50mL/分以下)といった症例に対してもワルファリンで管理可能と考えられる。

新規抗凝固薬のよい適応例としては,小松氏は個人的な意見としながらも,食物制限を嫌う患者,抗凝固療法を初めて行う患者(ワルファリン投与未経験例),TTRが不良な非高齢者,内服コンプライアンスが良好な患者,観血的検査・手術が必要な患者などを挙げ,「薬剤選択および投与量の決定に際しては,患者背景を十分に検討し,常にリスク・ベネフィットのバランスを配慮することが重要である」とまとめた。


▲TOP