循環器トライアルデータベース
HOME
トライアル検索
フリーワード検索
*検索について
トライアル名検索
1 4 5
A B C D E F
G H I J K L
M N O P Q R
S T U V W X
Y Z
疾患分類検索
薬効分類検索
薬剤名検索
治療法検索
キーワード検索
掲載トライアル一覧
学会情報
meta-analysis, pooled analysis
日本のトライアル
Trial Review
用語説明
Topic
開設10周年記念座談会
開設5周年記念座談会
AHA2012/ISH2012特別企画
このサイトについて
ライフサイエンス出版のEBM関連書籍

AHA2012 | 特別企画

Nov. 4

Cardiovascular Seminar
CVDのリスク評価と予防の新戦略
CVS. 206 New Strategies in Cardiovascular Risk Assessment and Prevention

今年,日本動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版」が刊行された。その大きな特徴は,治療方針を決定する際,従来の相対リスクではなく「NIPPON DATA80」のリスク評価チャートに基づいた絶対リスク評価を導入したことだが,米国心臓協会学術集会(AHA)2012の2日目である11月4日に,「New Strategies in Cardiovascular Risk Assessment and Prevention」と題したセッション(Cardiovascular Seminar CVS. 206: 司会;米国・Karol E Watson氏)が行われ,CVD予防を見据えた心血管リスク評価のための新しい戦略を巡り5人の演者が発表した。

スタチン治療は患者のCVD絶対リスクに応じた判断を。


Jennifer G Robinson
MD, MPH, FNLA

アイオワ大学のJennifer G Robinson氏は,「Should we use risk to guide treatment decisions---and how?」で治療の有効性を推定する指標として,CVDの絶対リスク,治療によるCVD相対リスク低下(RRR),治療必要数(NNT)があり,有害性の推定の指標には有害イベントの絶対リスク,有害イベントの相対リスク,有害必要数(NNH)があるとし,スタチン治療を決定する際には,絶対リスクを指標とすべきだと述べた。絶対リスクとは,ある人が特定の期間(5年,10年,30年後,生涯など)にCVDを発症する確率をその人の危険因子の値や保有状況をもとに推算するものである。低リスク患者でスタチン治療によってLDL-C 1mmol/L(39mg/dL)低下するごとにCVD,全死亡が大きく低下するという注目すべき結果を示したCTT collaborationは,5年間のCVD発症リスクを評価しており,治療強度も低-中等度(<50%低下),高度(≧50%低下)の治療まで含んでおり,リスク-ベネフィット解析においてこれらを別々にみることが可能なため,非常に強力なエビデンスだとした。氏はCVD発症絶対リスク5-10%未満患者,5%未満の患者別のスタチン治療のRRR,NNT,NNH,CVD,死亡率を示しながら,CVD絶対リスクが5-10%未満の患者はスタチン治療の適応で,中等度・高度の治療がよいと思われるがRRR,NNT,NNHから高度治療が望ましく,絶対リスク5%未満の患者には,冠動脈疾患早期発症の家族歴,動脈硬化が進行している場合を除いてスタチン治療は推奨できないとした。

グローバルな視点で全(global)CVDを標的にした包括的リスクスコアの使用を推奨。


Donald M. Lloyd-Jones
MD, SCM, FACC, FAHA

治療方法の決定には絶対リスクを基盤とすべきであると述べたのは,「Assessing global cardiovascular risk: what is global risk?」を発表したノースウエスタン大学クリニカルアンドトランスレーショナルインスティチュートのDonald M. Lloyd-Jones氏。絶対リスクを使用することにより,ベネフィットが期待できる高リスク対象を同定し,治療のベネフィットと有害性を直接比較できるとともに,患者とのコミュニケーションを改善し生活習慣改善や治療アドヒアランス向上への動機付けが可能になるとした。最適な予防戦略のために,リスク評価のエンドポイントは,特定のイベントに限定するのではなく全(global)CVDをターゲットとすべきとし,フラミンガムリスクスコア(FRS)でも2008年にPADも含めたFRS Global CVDが発表されたことなどを示した。さらに真の意味でのグローバルなリスク評価とは,世界のどのような施設や地域でも実行でき,互いの比較も可能なように基本的な因子(年齢,性別,TC,SBP,喫煙,糖尿病,降圧薬治療)を用いたものであるべきだとした。使うべきリスクスコアは,全CVDをエンドポイントとし,予後を知りたい期間がカバーされ,他の集団でも検証され,測定が容易な変数を使用し,自分の患者に近い背景の集団で作成したものであると結んだ。

スクリーニングすべきは,リスクか,疾患か?


David Goff, Jr
MD, PhD, FACP, FAHA

「Risk screening or disease screening?」を発表したのは,コロラド公衆衛生大学院のDavid Goff, Jr.氏。「リスクスクリーニング」とは,危険因子(年齢,性別,血圧,脂質,喫煙,血糖など)を測定してこれらを統合し,「いつから,どのくらいの強度で治療を行うか」を決めるための絶対リスクの閾値を設定すること。一方で,「疾患スクリーニング」は,無症候性の段階で疾患の有無を評価するアプローチである。CVDの観点からの標的臓器は心臓や脳,腎臓,標的血管は冠動脈や頸動脈,脳血管などで,CT,心電図,心エコー,MRI,超音波,ABIなどで評価し,必要に応じ各治療を開始する。氏は推定絶対リスクによるガイド治療は,危険因子レベルのみによるガイド治療にくらべ,有効性が高く,費用対効果も高いと考えられること,一方で疾患スクリーニングのためのシンプルなアプローチの例としては,CTスキャンによる冠動脈カルシウム,腹部大動脈-腸骨動脈カルシウム,腹部大動脈径,左室重量の測定を行うのがよいと考えられるとした。しかし,検討すべき点もあり残念ながら現時点ではベストなアプローチがどちらかは分からないと述べ,画像診断ベースと推定リスクベースの予防的ケアを比較するランダム化比較試験を実施しなくてはならないと結んだ。

バイオマーカーは疾患との関連のみならずリスク評価を改善するかを考慮する必要が。


Erik Ingelsson
MD, PhD, FAHA

スウェーデン・カロリンスカ研究所のErik Ingelsson氏の発表は「Genetic and end-organ damage markers for risk prediction: which and when?」。リスク予測のためのバイオマーカーの意義は対象集団(一次予防や二次予防),タイミング,測定目的(診断,治療,予後予測)といった条件や状況に依存するとし,理想的なバイオマーカーは解析面・臨床面での妥当性と実用性を満たしたコストの低いものであると述べた。CVDリスク予測の課題の一つが無症候性患者での実用性で,リスク予測において重要なのは疾患との因果関係やメカニズムではなく,リスク予測能を改善させるかどうかだとした。AHAのガイドラインでは,無症候性患者の場合に行うべきことは包括的リスクと家族歴の評価で,状況によりCRP,HbA1c,微量アルブミン尿,安静時・運動負荷時ECG,心エコーなどを挙げている。なお,心血管分野では遺伝学的検査を考慮すべき状況もあり,その一つがwarfarinとclopidogrel投与時であるが,臨床現場では薬剤遺伝学的検査が必要かについてのコンセンサスは得られていないと述べた。これまでの,いわゆる新しいバイオマーカーの多くがリスク予測能を改善し得ていないのは,すでに分かっている経路やメカニズム上にあるためで,プロテオミクスをはじめとする「オーミクス」的アプローチにより,新しい領域からバイオマーカーが発見される可能性があり,リスク予測も大きく改善することが期待されると結んだ。

患者のリスクに関する情報は治療などの動機付けに有効か?
—イエスだが,臨床試験による裏付けが必要。


Alan Rozanski
MD, FACC

「Can we use risk information to motivate patients?」を発表したのはセント・ルークス・ルーズベルト病院のAlan Rozanski氏。今年,米国心臓病学会財団(ACCF)が発表した「心血管分野における患者中心のケア(patient-centered care: PCC)に関する声明」では,「患者に対する教育および動機付けは,彼らの健康,および患者自身の疾患管理への積極的な参加のために不可欠」とされている。PCCには4つの柱からなる「患者の判断能力強化(patient empowerment)」の概念が含まれる。4つの柱とは,患者教育,患者の自己管理,協同作業による目標設定,そして協同作業による治療計画である。氏はこの10年に実施された冠動脈カルシウム検査の結果が患者に与えた影響を比較した2つのランダム化比較試験の試みを紹介し,いずれも残念ながら「リスクに関する情報は患者の動機付けに有効か?」を結論づけるにはまだ不十分であるとした。次に氏は健康にかかわる行動変容に触れ,目標達成までに,動機→実行→維持という3つの局面があるとした。「行動変容に関して,動機が占める割合はわずか28%」と報告したメタ解析もあるが,行動変容が起こるためには動機だけでは不十分で,動機が行動に結びつかなければならないとした。「患者のリスクに関する情報は動機付けに有用か?」に対しては経験からはYESだが,臨床試験によるエビデンスが必要であると述べた。

UP

    --------------------
(c) copyright 2001-. Life Science Publishing Co., Ltd
 
携帯版 EBM LIBRARY