堀(司会): 2001年4月に収録トライアル数460件でスタートした「循環器トライアルデータベース」も10年を迎え,現在の収録トライアル数は約1200件となりました。開設当初,発表されるトライアルは仮説どおりに実薬が有意な効果を示すものがほとんどでした。しかし,最近では有意差を示すことができないトライアルが多くなっています。医師の熱意により多くの患者さんの協力を集めながら行われた,これらのトライアルをどのように考えたらよいのか,有意差を得られない介入試験・RCT(Randomized Controlled Trial)をどう読み解くか,また臨床にどういかすかということで,6人の先生方にそれぞれ印象的なトライアルについてお聞かせいただければと思います。 AFFIRM:試験の問題点から仮説形成へ
井上:わたしはAFFIRM[1]をとりあげたいと思います。AFFIRMは2002年に発表されたトライアルで,洞調律維持治療と心拍数調節治療のいずれが心房細動(AF)患者の予後に有効かを比較したRCTです。われわれが診療をはじめた頃,AF患者にはもっぱらジギタリスなどによって心拍数を抑制する治療を行っていました。しかし1980年代より抗不整脈薬という手段を持つに至り,不整脈そのものを抑制できるようになりました。AFを抑制すれば予後もよくなるし,塞栓症や心不全も減るだろうという仮説が立てられてこのトライアルが行われたのです。しかし洞調律維持治療群と心拍数調節治療群では,死亡率に差がなく(P=0.08)同等であることが示されました。この結果が出た後,カナダでは抗不整脈薬の使用量が激減し,心拍数調節治療による治療が増えるという影響も示されています。 堀:心拍数調節治療群で投与された薬によっても,結果が異なるのではないかという気がします。実際どのような比率なのでしょうか。 井上:心拍数調節治療群ではジギタリス70.6%,β遮断薬が68.1%,続いてCa拮抗薬(ジルチアゼム)46.1%です。 堀: ジギタリスでのコントロールには限界があると思いますが,心拍数調節治療でβ遮断薬を使ったからよかったという可能性もありますね。この後行われたJ-RHYTHM[2]ではどうだったのでしょうか? 井上: J-RHYTHMでは,β遮断薬は心拍数調節群の51.5%に用いられています。また,この試験でも洞調律維持と心拍数調節でハードエンドポイントに差は示されていません。 堀: それではAFFIRMの結果は,他の試験でも確認されているといえますね。 寺本: 井上先生がおっしゃったように,洞調律維持治療というのは治療法自体が難しいわけですね。それに,AFに対してアミオダロンがかなり使われていますね。 堀: 6割程度使用しています。 寺本: それで有効性,副作用がどれくらいかが重要であり,結局のところ個々の薬剤に注目して検討していかないと難しい部分があるのではないかと思うのです。 桑島: また,intention-to-treat解析ですから,途中で洞調律,除細動しきれない例も洞調律維持治療群に含まれています。その辺りがintention-to-treatで分析する限界であるとも考えます。 木村: 臨床の現場で経験的によいと思われて行われている治療というのはたくさんあって,それが実はRCTを行うと思ったことと違うということが往々にしてあります。無症候性の心房細動にも積極的にアブレーションが行われていますが,これが実際どうなのかは非常に大事な問題です。アブレーションによる洞調律維持治療が予後を改善するのか,という問題を提示した点でとても重要なトライアルであったと思います。 堀: ありがとうございました。では木村先生お願いいたします。 CHARISMA:リスクとベネフィットのバランスをみる
木村:
2006年に発表されたCHARISMA[3]につきましてお話させていただきます。アテローム性血栓イベント高リスク患者において,アスピリンにクロピドグレルを追加する2剤併用抗血小板療法(DAPT)はアスピリン単独投与より心血管イベントを抑制するか否かを検証するRCTで,一次エンドポイントは心筋梗塞,脳卒中,心血管死の初発の複合エンドポイントです。対象患者は,前述のとおりアテローム性血栓イベント高リスク患者で,いわゆる高リスクの一次予防患者と二次予防患者が含まれています。あらかじめ規定されたサブグループではありますが,これらを一緒にして解析した結果,一次エンドポイントの発生率については,両群間で有意な差を得ることはできませんでした(P=0.22)。ただ,一次予防患者,二次予防患者でみたサブグループ解析では,高リスクの一次予防のグループでの一次エンドポイントはDAPTの方が高い傾向がある一方(P=0.20),二次予防の患者だけを取り出すとDAPTが有意に低いという結果が報告されています(P=0.046)。一次予防患者と二次予防患者を一緒にしたことが,有意差のでなかった一因であるかもしれません。 堀:その後,そのスタディはされていないのですね。 木村:そのグループだけに特化したスタディを,本来であれば実はもう1回しないといけないわけです。ただDESを使った患者さんを対象としたこういった試験もいくつか結果が出始めていて,REAL-LATE and ZEST-LATE[4],あるいはESC2011で発表されたPRODIGY,両方ともDAPTで長期の心血管イベントは減らさない,ほぼ同等であるという結果が出てきていて,CHARISMAをもう1回,二次予防患者で繰り返してもネガティブである可能性が高いのではないかと思われます。 堀:これは例数を増やせばポジティブになる可能性があるぐらいの差なのでしょうか。 木村:ハザード比が0.93です。常識的には「10%のリスク低下」は介入に値しないと思います。 堀:仮に対象患者の数を増やされて有意差が出たとしても,10%というのが臨床的にどれだけの意味をもつかということになりますね。 寺本:また別の観点からみると,確立された治療がすでにあると多くの患者さんはその治療をされますから,当然イベント発症率が相当落ちます。そのことが1つの大きな要因だと思うのです。このトライアルでも,アスピリン投与によって上乗せ効果は減ったということが考えられます。しかし本当に上乗せ効果がないかは確信がもてません。その辺りの見極めが難しくなってきている気がします。 堀:たとえば,「出血が少なく抗血栓作用だけが強い」というクロピドグレルの次世代の治療薬が出てきたときに,アスピリンと併用して上乗せ効果が得られる可能性はあるでしょうか。 木村:先日発表されたAPPRAISE-2[5]というアスピリン,クロピドグレルにapixabanという直接的第Xa因子阻害薬を加えるというトライアルは,出血の増加で試験中止になりました。そういったこともあり,私は抗血栓療法そのものをどんどん強くして予後を改善するという方向というのは,限界にきているように思います。一方,ticagrelorというP2Y12のリバーシブルな拮抗薬があり,PLATO[6]では,クロピドグレルに比べて生命予後を改善しているのです。それは必ずしも抗血小板効果が強いからというわけではなく,他の作用機序がある可能性があります。ですから,薬剤のクラスではなく,個々の薬剤での評価というのを大事にしていくことが必要になってくるのではないかという気がしています。 堀:ありがとうございました。それでは次は,寺本先生お願いします。 ACCORD Lipid:臨床現場で使えるデータを探し出す
寺本:私はACCORD Lipid[7]を取り上げました。ACCORD Lipidは高リスク2型糖尿病患者において,スタチンにフィブラートを併用投与することで,心血管疾患(CVD)をより予防できるかを検討した試験です。元々ACCORD[8]では,厳格な血糖コントロール群での死亡率が増えるということで,厳格な血糖コントロールのアームは中止になっています。そういったことから,ACCORD Lipidではスタチンへのフィブラート追加によりCVDが抑制できるかどうかをみた試験だったのですが,スタチン単独群と併用群の両群に差はみられませんでした。 堀:先生はこの試験の結果をどう予想されていましたか。 寺本:よい結果が出て欲しいとは思っていました。そして結果をみてからも,期待していたために,どこかよいところをみつけて臨床に使っていきたいというような気持ちがどうしても起こってくるのです。 永井:それはまったく正しい姿勢なのではないでしょうか。統計というのは結局どう使うかであって,なにが真実かというところを見極める学問では必ずしもない。最近,なにか過剰に結論付けるという風潮があるような気がします。サブグループ解析についても,科学的には精度は落ちる訳ですが,高TG血症で低HDL-C血症の2型糖尿病における脂質異常症において,併用療法の新たな仮説は生み出しています。 堀:ありがとうございました。次は永井先生お願いいたします。 COURAGE:反論論文からトライアルを読み解く方法を学ぶ
永井:私からは2007年に発表されたCOURAGE[9]を紹介させていただきます。安定冠動脈疾患患者において,至適薬物治療にPCIを併用した場合の効果を,至適薬物治療単独と比較検討した試験です。一次エンドポイントである全死亡+非致死的心筋梗塞発生率は,両群間に有意な差はみられませんでした。この結果は臨床現場でも大きなインパクトを与えたようですし,私の周りでもこの試験の発表以来,同様の患者さんに対する治療介入に対して少しブレーキがかかっているという感じがします。
寺本:私はエンドポイントに違和感を持つのですが。 木村:確かに2000例規模の試験で,PCIによって死亡と心筋梗塞を有意に減らさないといけないというのはかなりきつい条件です。さらに患者背景をみると3枝病変も30%程度あるのですが,現場の判断としてPCIをしてもしなくても,そんなに不利益を与えないであろうという患者さんが登録される傾向もあると思います。この試験が教えてくれることは,そのような低リスクの患者さんにPCIをしても,そんなに大きなベネフィットはないが,ただPCIの症状改善効果は大きいので,「総合的に判断して適応を考えましょう」というのが妥当です。 井上:同じような試験はその後あるのですか。 木村:同じものはないのですが,今準備しているのは,ISCHEMIAという試験で,COURAGEとは逆で,虚血のかなり強い患者さんだけを登録して,冠血行再建術にこういったハードイベントを改善する効果があるか否かを検討する予定です。冠血行再建術は,ハードイベントを改善するということを証明しないといけない時代になってきてはいるのですが,心筋虚血領域10%以上のかなり重症な患者さんが対象なので,患者登録がかなり大変な試験だとは思っています。 桑島:第33回欧州心臓病学会(ESC 2011)で発表された3枝病変の患者さんの登録研究(CREDO-Kyoto PCI/CABG Registry Cohort-2)ではCABGに比べPCIがネガティブでしたね。 木村:そうですね。実はCOURAGE発表後,米国では10〜15%くらいPCIは減っていますが,日本はそこまで影響を受けていません。「不必要な冠ステント術」が米国でクローズアップされていることもあるかもしれませんが,日本でもきちんとした適応を考えて治療するということはとても大事だと思います。 堀:ありがとうございました。 CIBIS III:異質の複合エンドポイントを読み解く
堀:私からは,軽-中等症の慢性心不全患者を対象としたCIBIS III[10]を紹介させていただきます。この試験は,β遮断薬投与開始後にACE阻害薬併用投与する群の,ACE阻害薬投与開始後にβ遮断薬を投与する群に対する非劣性試験です。従来,慢性心不全治療ガイドライン上では,慢性心不全患者ではまずACE阻害薬あるいはARBの投与を開始し,その上でβ遮断薬導入となっています。しかしACE阻害薬とβ遮断薬ではメカニズムが違うし,β遮断薬の予後改善効果も大きいことから,β遮断薬を先に投与してはどうかと考えていたので,私自身この試験にはとても興味を持っておりました。
桑島:堀先生がおっしゃったように,この試験が重症心不全の患者に対しては生命予後が大事なのか,あるいはQOLの改善が大事なのかという問題を含んでいる点が面白いですね。 堀:実のところ心不全の試験は,死亡と心不全の悪化による入院というのを一緒にしているものが多いのです。 桑島:どちらかに決めた試験が必要かもしれませんね。 寺本:現実的には,試験の対象患者の問題になってくるのです。死亡だけをエンドポイントにするとなると,相当数の登録患者が必要になり,試験として実施できないということになってしまう。複合エンドポイントとするのは,なにかポジティブに出そうという努力のゆえといえるでしょうが,メカニズムが違うものを合算するとおかしなことが起こってくるということですね。
堀:そうです。おっしゃったようにハードエンドポイントの死亡とQOLというのはイコールではない。延長線ではないのです。違った性質を持っている。 ONTARGET:治療の変遷を加味した結果の解釈
桑島:私はONTARGET[11]を紹介させていただきます。血圧値が正常域内の高リスク患者において,ARB テルミサルタンがACE阻害薬ラミプリルと同程度に有効であるか(非劣性試験),非劣性が認められた場合,テルミサルタンとラミプリルの併用がラミプリル単剤投与よりも有効であるかを検討した2008年発表の試験です。2000年に発表されたHOPE[12]で,冠動脈疾患高リスクの患者さんにおいてACE阻害薬投与により心血管予防効果があるとされてから,ARBもACE阻害薬同様,降圧を超えた心保護効果があるか否かを検証する必要があるとされたのです。
堀:その辺りは非常におもしろいですね。臨床現場で考えられる十分な治療をしていれば,そこへ少々よいものを加えても,もうほとんど差を示すことはできないということですね。ARBが無力ということではない。 ネガティブになった理由を吟味して臨床現場でいかす 堀:ここでまとめさせていただきますと,これら試験がネガティブになった理由として考えられるのは,第一にエンドポイントの設定の仕方に問題があったのではないか,ということ。エントリー数の関係などから異質のイベントを混ぜて複合エンドポイントとして設定するのは問題なのではないかということですね。それから,治療内容が時代とともに変わってくることで,複数の薬剤を投与されている患者さんに対して新薬を投与してもそのベネフィットは出にくい状態になっているのではないかということも考えられます。さらに,そもそものスタディデザインに問題がある場合。極論すればサンプル数が少なすぎて有意差が出ないという場合もありますね。さらには,同様に試験の対象となる患者さんの不均一性の問題もあります。
永井:少し付け加えますと,PCIなどの手技が本当に正しく行われているか,服薬アドヒアランスはどうなっているのかなどでも影響が出る可能性がありますね。
堀:PCIやアブレーションなどは施設差が出やすいですね。ワルファリンのTTR値のばらつきの問題もあります。これらは要因として効いてくる可能性がありますね。今申し上げたようなことでネガティブトライアルになっている可能性のあるものと,デザインもサンプル数も申し分ないのに有意差が出ない試験を分けて考えて,前者については,今後層別化する,デザインを変えるなどとして確かめていく必要はあると思います。
永井:理屈は間違えることがあるということですね。そういったことを元に基礎医学がまた発展する。循環しているのですね。 堀:さらに,我々は試験を評価する際に同じカテゴリーの薬を同一視してしまわないように気をつけなくてはいけない。例えばCIBISⅢではβ遮断薬でもビソプロロールを使っています。このビソプロロールをβ遮断薬全体としてみてしまわず,違う薬剤で同じようなプロトコールで行われている試験とを含めメタアナリシスをして,結論としてクラスエフェクトがあるというようにやっていく必要があります。 寺本:CETP阻害薬でちょうどtorcetrapibが開発中止となっていますが,結局あれがクラスエフェクトかどうかはわからない。他の2つのCETP阻害薬で試験が進行していますので,それによって解決されると思います。 永井:ポジティブであっても,有意差が5%であっても間違える確率があり,積極的に差があるといっていることを明言している訳ではなくて,差がないとは必ずしもいえないというロジックです。だから,これはいつも統計の先生にいわれるのですが,この結果の情報をどう使うかということが非常に重要だということですね。 井上:100人のうちに1人か2人こういう副作用がありますよというと,「自分はあたらない」と思われる患者さんが大半でしょうから,私たちも情報をきちんと使って説明していかなくてはいけないですね。 堀:先生方,大変よいディスカッションをしていただきありがとうございました。有意差の得られないRCTの結果から教えられることはたくさんある,しかしその結論を臨床にいかすにはきちんと内容を吟味しなくてはならないというのを結論にさせていただいて,閉会とさせていただきたいと思います。
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