Nov. 6
SS. 10. 心血管疾患予防のための行動計画:Million HeartsとAHA 2020
Action Plan for Prevention of Cardiovascular Disease: Million Hearts and AHA 2020. 5年間で100万のハートを救う。Janet Wright MD, FACC “Million Hearts”は5年間で100万の心筋梗塞,脳卒中を減らそうという米国のプロジェクトで,国が主体となって行っている。米国では毎年200万人以上が心筋梗塞と脳卒中に罹患し,80万人が死亡,医療費を含めた経済的損失も大きい。このMillion Heartsの概要が事務局長のJanet Wright氏から説明された。まず,医療者側の活動として,“ABCS”の改善目標が紹介された。これは4つの心血管危険因子の管理を覚えやすいよう略称にしたもので,Aは高リスク症例のアスピリン服用,Bは血圧管理,Cはコレステロール管理,Sは禁煙を指している。これらの目標達成度は毎年評価されており,氏によれば現状ではAが47%,Bが46%,Cが33%,Sは23%といずれもまだ不十分だ。また,地域社会の予防活動としては,禁煙のほか減塩,トランス脂肪酸の抑制にも取り組んでおり,たばこへの課税強化と公共の場の禁煙化などにより喫煙率が10年間で21%から14%にまで減少したこと,トランス脂肪酸を規制する州や自治体が増加していることなどが報告された。減塩に関しては,米国では塩分の8割近くを加工食品と外食から摂取しており,個人が塩分量をコントロールすることは困難なことから,食品業界や外食産業界と協力した減塩活動をはじめている。このような現状から,氏は今後取り組むべき項目として,webを使った薬剤師によるサポートや,患者負担の無料化あるいは低額化,医療機関同士でのデータのシームレスな運用,高塩分食の追放などをあげた。 社会全体を巻き込んだ予防医療。James M. Galloway MD, FACC, FAHA 米国心臓協会(AHA)はMillion Heartsと連動して,“AHA 2020 Impact Goal”という目標を掲げている。これは, 2020年までに心血管死,脳卒中死を20%減少させることで全米国民の心血管の健康を20%改善させようというもの。その概要がノースウェスタン大学のJames M. Galloway氏により解説された。 AHA 2020 Impact Goal達成のための戦略。Mariell Jessup MD, FAHA AHA 2020 Impact Goalは達成できるのだろうか。ペンシルベニア大学のMariell Jessup氏は,現状では目標達成に遠く及ばないことを報告し,目標達成のための今後の戦略を述べた。“Simple 7”の項目について現在の改善状況をみると,喫煙率,高コレステロール血症,高血圧は改善しているが,身体活動と健康的な食事には変化はなく,肥満,空腹時血糖はむしろ悪化している。このまま推移すれば心血管の健康の改善はわずか6%にとどまる。 AHAでは,たとえば「Fit-Friendly Companies(フィットネス意識の高い企業の認定)」,「CPR and First Aid(一般人による心肺蘇生の向上)」,「Teaching Gardens(こども向けの野菜作り体験によって健康的な食事への関心を高める)」,「Food Certification(AHAによる健康的な食品の認証)」,「Sodium Campaign(減塩キャンペーン)」ほか多数のプログラムを行っている。Jessup氏は,それぞれのプログラムを,根拠,年間目標,2014年目標,行動戦略,最終ゴールに分けて解説した。 人種・民族による健康・医療格差。Keith Ferdinand MD, FACC, FAHA National Forum (NF) for Heart Disease & Stroke Preventionは,AHA,ACCを含む心疾患・脳卒中の予防に取り組む66の非営利,営利,政府組織により構成される連合体であるが(webサイト参照,NF の議長であるKeith Ferdinand氏は,医療格差に言及した。米国内で根強く残っている人種,民族,経済,社会的格差は医療格差に結びついており,黒人は白人にくらべて予防しえた入院が2倍多く,入院も43万件多い。同様にヒスパニック系住民でも入院は11万件多いという報告がある。また,黒人は男女とも,白人よりも冠動脈疾患と脳卒中による死亡が多く,これが平均寿命の差となってあらわれている。低コストで有効性の高い予防治療があるにもかかわらずである。NFはこのような医療格差の解消に取り組んでおり,Million Hearts,AHA 2020 Impact Goalとのパートナーシップ協定を結んだ。 生活習慣への介入,薬物介入は相加的な効果がある。Barry A. Franklin PhD, FAHA フラミンガム心臓研究からは,50歳時にCVDの危険因子をもたない人は,その後のCVD発症リスクが低いことが示されている。オークランド大学のBarry A. Franklin氏は,住民全体あるいは個人レベルでのCVD予防について述べた。たとえば,食事についての一般市民向けメッセージは,心保護と関連する魚介類,全粒粉,果物,野菜,ナッツなどを多くとり,イモ,精製した穀物,砂糖,加工肉,甘味飲料,塩などは減らすべきというようにシンプルで簡潔にすべきとしている。禁煙の効果は法制化によってさらに大きくなり,2006年に公共の場での禁煙を法制化したスコットランドでは急性冠症候群による入院が17%減少したのに対し,そのような法制化を行わなかったイングランドでは4%の減少にとどまったという報告を紹介した。また氏は住環境の問題も指摘し,周辺にレクリエーション施設が多いと過体重が減少,黒人・低所得層の居住地域にはファストフードの店舗が多いという報告も示した。また,CVD抑制のために降圧薬,脂質低下薬,抗血小板薬などの複数の薬剤を配合したポリピルの有効性についても言及した。生活習慣介入と薬物介入はそれぞれ独立してCVD予防に有効であり,効果も相加的である。Franklin氏は多方面からの協力によって医療格差を解消し,CVDリスクを低下させることが非常に重要だと述べた ▲UP
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