心血管リスクに基づく降圧治療:患者個人データのメタ解析(BPLTTC)
pooled analysis
降圧で達成される心血管リスクの相対低下は,ベースライン時の心血管リスクレベルを問わず,降圧治療による絶対リスク低下は高リスク症例ほど大きい。降圧治療の決定における心血管リスクの有用性が示された。
Blood pressure lowering treatment trialists' collaboration: Blood pressure-lowering treatment based on cardiovascular risk: a meta-analysis of individual patient data. Lancet. 2014; 384: 591-8. PubMed
目的 |
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脂質低下治療ではベースライン時の心血管疾患(CVD)リスクに基づいた治療の選択が推奨されているが,降圧治療は主に血圧値に基づいている。
降圧薬のランダム化比較試験(RCT)の個別患者データを用いて,降圧治療の有効性はベースライン時のCVDリスクに比例するかを検討し,絶対CVDリスクを降圧治療の選択に用いることができるかを検証する。
一次エンドポイントは,主要CVD(脳卒中[非致死的脳卒中・脳血管疾患死],冠動脈疾患[CAD;非致死的心筋梗塞・突然死を含むCAD死],心不全[死亡または入院],CVD)。 |
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対象 |
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11試験・51,917例。降圧薬(ACE阻害薬・Ca拮抗薬・利尿薬ベース) vs プラセボ,積極的降圧治療 vs 標準的降圧治療のRCTで,各群の追跡規模が1,000人・年以上,1995年7月以降に主な結果が発表されたもの。
■患者背景:平均年齢(<11%リスク群59.4歳, 11~15%リスク群67.8歳, 15~21%リスク群72.0歳, >21%リスク群75.1歳), 女性(55.4%, 40.5%, 32.3%, 21.9%), 喫煙(10.4%, 18.1%, 18.8%, 24.5%), CVD既往(11.3%, 23.2%, 40.7%, 70.2%), 降圧薬投与歴(45.4%, 59.0%, 68.5%, 77.6%), 糖尿病(29.5%, 44.7%, 46.9%, 59.1%), BMI(28.3, 27.6, 27.0, 26.8kg/m²), 総コレステロール(220, 212, 209, 201mg/dL), HDL-C(56, 52, 51, 49mg/dL), 血圧(155/94, 159/90, 162/89, 165/88mmHg), ベースライン時の推定5年CVDリスク(6.0%, 12.1%, 17.7%, 26.8%), プラセボ群における実際の5年CVDリスク(6.5%, 13.2%, 20.6%, 24.8%)。追跡期間中央値4.0年。 |
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方法 |
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プラセボ群のデータを用いてリスク推定式を作成。使用した変数は年齢,性別,BMI,血圧,他の降圧薬,現喫煙,糖尿病,CVD既往。脂質値は,データのない試験が多かったため含めなかった。
推定式によりベースライン時の5年主要CVDリスクを算出し,4群に分類(<11%リスク群,11~15%リスク群,15~21%リスク群,>21%リスク群)。 |
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結果 |
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[一次エンドポイント]
心血管イベント発症は4,167例(8%)。ベースラインリスク別では,<11%リスク群(1,042/25,480例)4.1%,11-15%リスク群(1,042/12,544例)8.3%,15-21%リスク群(1,042/8,287例)12.6%,>21%リスク群(1,041/5,606例)18.6%。
降圧治療によるCVDリスクの相対低下率は,それぞれ18%(リスク比0.82;95%信頼区間[CI]0.73-0.93),15%(0.85;0.75-0.96),13%(0.87;0.78-0.98),15%(0.85;0.76-0.95)で,4群間に差は認められなかった(傾向のP=0.30)。
しかし絶対リスク低下は,件/1,000人・5年治療でみると,各々14件(95%CI 8-21),20件(8-31),24件(8-40),38件(16-61)で,ベースラインリスクが高い症例ほど大きかった(傾向のP=0.04)。
心血管イベント1件を予防するためのNNTは,それぞれ71,51,41,26。
[二次エンドポイント:脳卒中,CAD,心不全,CVD死,全死亡]
脳卒中,CAD,心不全,CVD死についても,有意ではなかったものの,概ね同様の傾向が認められた。
全死亡については,ベースラインリスクが高い症例における絶対リスクの低下は認められなかった。
[降圧度との関係]
降圧治療群と対照群の達成血圧差は,それぞれ4.6/3.0,6.0/3.2,7.1/3.2,5.9/3.0mmHg。
相対リスク低下は,収縮期血圧(SBP)の5mmHg低下または5%低下で標準化して解析した結果もほぼ同様であった。
ベースラインリスクが高く,血圧の低下が大きいほど,治療により回避できるイベント数は増加した(<11%リスク例のSBP 4mmHg低下で5件,>21%リスク例のSBP 16mmHg低下で69件)。
[その他]
ベースライン血圧≧140/90mmHgのサブグループ,降圧薬群 vs プラセボ群のRCTのみの解析結果も同様であった。
★考察★4群にわけた心血管リスクごとに降圧治療の有用性をみると,相対的有用性は4群ほぼ同じであったが,絶対的リスク減少はリスクが大きい群ほど大きかった。この結果は,降圧治療方針決定もベースラインのリスクに応じて行うべきことを示唆する。
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