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心血管・腎転帰に対する厳格降圧 vs 標準降圧
meta-analysis

厳格降圧群は標準降圧群より血管保護効果が大きかった。高リスク例ではSBP<140mmHgの症例も含めて厳格降圧の有効性が認められ,正味の絶対的有効性が大きかった。
Xie X et al: Effects of intensive blood pressure lowering on cardiovascular and renal outcomes: updated systematic review and meta-analysis. Lancet. 07 November 2015.

コメント

メタ解析のメリットは,対象数を増やすことで統計パワーを増し,有意差を出しやすくすることである。まさに本メタ解析は4万5千人規模に対象数を増やすことで,平均133/76mmHgまでの厳格降圧が140/81mmHgという現行の標準降圧目標値よりも脳心血管合併症予防効果が大きいことを示しメタ解析の長所を発揮した結果であった。しかもタイムリーなことについ先頃NEJM誌で発表されたランダム化比較試験(RCT)SPRINTで収縮期血圧120mmHgまでの降圧が,140mmHgの降圧よりも心血管合併症の予防効果が大きいという結果と厳格降圧群の血圧レベルは異なるものの,同方向性の結論となった。
フラミンガム研究,久山町研究,東北大学のHOMED-BP研究などの観察追跡研究はいずれも収縮期血圧120mmHg以上になると心血管合併症発症が増えることをすでに発表している。
エビデンスの両輪である観察疫学研究,RCTがいずれも心血管合併症予防には厳格な降圧が重要であることを示し,かつ本メタ解析でもそのことを裏付けたことは,長い間論争の的であった至適降圧レベル論争,あるいはJカーブ論争に終止符をうち,高リスク高血圧症例での“The lower the better”を確定的にしたものといえよう。
高リスク高血圧例での至適収縮期血圧を検証したSPRINT試験では,心筋梗塞,脳卒中に関しては予防効果がみられず,心不全,心血管死の予防効果が全体効果に寄与した。一方,本メタ解析では,心血管イベント,心筋梗塞,脳卒中のいずれに対しても厳格降圧の予防効果が大きいことを示したが,心不全に対する予防効果はみられなかった。この違いは,対象数の違いに由来するのか,利尿薬の使用率の違いなのか,あるいは厳格降圧のレベルの違いに起因するのかは不明である。本メタ解析にはSPRINT試験結果はもちろん含まれていないが,もし含まれていれば心不全にも差がついた可能性がある。本メタ解析のlimitationは,含まれたRCTや観察研究のなかには厳格な降圧群とはいっても,収縮期血圧120mmHgまで達成できていない研究もふくまれているため,厳格降圧レベルが130mmHgにすら達成できず133/76mmHg止まりであり,この点がSPRINT試験と異なり心不全や死亡に対する抑制効果を示すことができなかった要因かもしれない。また拡張期血圧のJカーブ現象発現のクリテイカルポイントである70mmHg以下という課題に対しても回答を与えるものではなかった。メタ解析は対象例を多くすることでサブ解析の信頼性を高めるが,本メタ解析でも,高齢者,糖尿病合併例で厳格降圧の有用性が高いことが示されており,高リスク例ほど予防効果が大きいことが示唆されている。
メタ解析の欠点といわれる選択バイアスに関しては,日本のJATOSやHOMED-BPなども含まれており,これまでの発表された降圧目標値に関する臨床試験はほとんど網羅しておりバイアスは少ないと考えられる。
いずれにしても,本メタ解析の結果は,SPRINT試験とともに,これまで高リスクや高齢者ほど血圧を高めにとしていた日本のガイドラインを見直すきっかけになる研究といえよう。厳格降圧群では有害事象報告は6試験のみで発生率は1.2%/人・年であり標準治療群との間に有意差は認められなかったものの,これはあくまでの臨床研究という適正使用での結果であり,実臨床で厳格降圧を実施する際には高リスク例,高齢者ほど慎重にすべきである(桑島)。

目的 最近の高血圧ガイドラインでは心血管疾患,腎疾患,糖尿病患者などの高リスク者の目標血圧値が緩和された。その理由として,目標収縮期血圧(SBP)<120mmHgでの厳格降圧と<140mmHgの標準降圧を比較したACCORD試験で,SBPの降圧差14mmHgで心血管(CV)リスクに差がなかったことがよく引用されている。一方で,厳格降圧による主要CVイベントの抑制を報告したシステマティックレビューもある。このような不確実性に加え,最近いくつかのランダム化比較試験(RCT)が終了したことから,厳格降圧の有効性と安全性を評価する最新のメタ解析を行った。
評価項目は,主要CVイベント(心筋梗塞[MI],脳卒中,心不全,心血管死,これらの複合エンドポイント),非血管死,全死亡,末期腎不全,有害事象,アルブミン尿・網膜症の進行(糖尿病患者対象の試験)。
対象 19試験*・44,989例。薬物治療による厳格降圧と標準降圧を目標血圧値またはベースラインからの降圧度で比較したRCTで,追跡期間≧6か月のもの。CVD・腎疾患高リスクの高血圧患者対象の試験も含めた。
* HOT,UKPDS-HDS,ABCD(H),ABCD(N),REIN-2,JATOS**,Cardio-Sis,VANLISH,AASK,ACCORD,HOMED-BP**,SPS3,PAST-BPなど。** 日本のトライアル
■試験背景:平均追跡期間3.8年,追跡不能0-4.9%。
方法 MEDLINE,Embase,Cochrane Libraryを検索(1950年1月1日-2015年11月3日)。検索された論文とレビュー論文の参考文献もハンドサーチし,ClinicalTrials.govウェブサイトも検索。
結果 追跡期間中の平均血圧は厳格降圧群133/76mmHg,標準降圧群140/81mmHg。

[主要CVイベント(14試験)]
2,496/43,483例発生。
追跡期間中の平均血圧の群間差は-6.8/-3.5mmHgで,厳格降圧群のほうが標準降圧群より有意にCVイベントリスクが低かった(相対リスク0.86;95%信頼区間0.78-0.96,P=0.005,I ²=22.4%)。
その他のイベントの結果は下記の通り。
MI(13試験):864/42,389例;-6.6/-3.4mmHg;0.87;0.76-1.00(P=0.042,I ²=0%)。
脳卒中(14試験):1,099/43,483例;-6.8/-3.5mmHg;0.78;0.68-0.90(P=0.001,I ²=12.7%)。
心不全(10試験):410/33,306例;-7.2/-4.0mmHg;0.85;0.66-1.11。
CV死(13試験):-6.9/-3.5mmHg;0.91;0.74-1.11。
全死亡(19試験):1,762例;-6.8/-3.5mmHg;0.91;0.81-1.03。
末期腎不全(8試験):514/8,690例;-9.4/-5.1mmHg;0.90;0.77-1.06。
非CV死(12試験):-6.9/-3.6mmHg;0.98;0.86-1.13。
アルブミン尿の進行(3試験):1,924/5,224例;-10.1/-6.4mmHg;0.90;0.84-0.97(P=0.004,I ²=0%)。
網膜症の進行(4試験):693/2,665例;-11.2/-6.3mmHg;0.81;0.66-1.00(P=0.048,I ²=63.7%)。

[サブグループ・感度分析]
ACCROD試験を除外した感度分析,サブグループ解析の結果も一貫していた。
厳格降圧群の目標SBP<150mmHg(1試験)または<140mmHg(3試験)の4試験を除外した解析でも,主要血管イベントの抑制が認められた(0.91;0.84-1.00)。
血管疾患,腎疾患,または糖尿病患者のみを対象とした試験(主要血管イベントでのNNT=94)では,他の試験(NNT=186)より絶対的有用性が大きかった。

[有害事象]
血圧低下に関連する重篤な有害事象が報告されたのは6試験のみで,発生率は1.2%/人・年 vs 0.9%/人・年(1.35;0.93-1.97)。
重度の低血圧(5試験)は厳格降圧群のほうが多かったが,絶対差は小さかった(0.3%/人・年vs 0.1%/人・年;2.68;1.21-5.89,P=0.015)。
浮動性めまい(3.1%/人・年 vs 2.8%人・年),有害事象による治療中止(両群とも1.0%/人・年)に差はみられなかった。

(収載年月2015.11)
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