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HDL-C上昇と心血管疾患との関連
meta-analysis

HDL-C値を上昇させても心血管疾患リスクは低下しない。
脂質異常症治療の第一のターゲットはLDL-Cの低下であることが支持された。
Briel M et al: Association between change in high density lipoprotein cholesterol and cardiovascular disease morbidity and mortality: systematic review and meta-regression analysis. BMJ. 2009; 338: b92. PubMed

コメント

低HDL-Cが冠危険因子であることは,ほぼグローバルに認められている事実である。しかながら,HDL-Cを上昇させることにより,冠動脈疾患が減少するという臨床的エビデンスは確立されていない。これは,スタチンとは異なり,純粋にHDL-Cを上昇させる薬剤が存在しないためである。本論文はそのような限界をメタ解析という手法で解決しようとするものと理解される。そして,HDL-Cの上昇が冠動脈疾患の予防効果を示さないという結論を導いている。しかしながら,本論文で扱われた試験には,プロブコールのようにHDL-Cが低下する薬剤も含まれていたり,ACT阻害薬のように本来脂質に影響を与えないような薬剤を用いた試験が含まれており,HDL-Cの上昇を評価するメタ解析としては問題のある解析といわざるを得ない。逆に,LDL-Cについては,どのような解析をしようがLDL-C低下の有効性が示されたという意味では強固なエビデンスということができるのかもしれない。むしろ,EBMのなかで最上位とされるメタ解析のありかたを問うべき論文といえよう。(寺本

目的 大規模コホート研究はHDL-Cを冠動脈疾患(CAD)の強い独立した逆相関因子とし,全米コレステロール教育プログラム(NCEP)はHDL-Cを心血管疾患の独立した危険因子と認め,全成人でのHDL-Cのスクリーニングを推奨している。しかし,観察研究からはCADのリスクに影響するHDL-Cの変化度は明確にはなっていない。多くのランダム化比較試験(RCT),メタ解析がLDL-Cを脂質異常症治療の主な標的と同定しているが,HDL-Cの上昇が心血管イベントを抑制するかはまだ議論のあるところである。
そこで脂質異常症治療(スタチン系薬剤に限定しない)とHDL-Cの変化の独立した関連を探索するために,メタ回帰分析によりRCTの包括的なシステマティックレビューを行った。

脂質異常症治療薬の有効性を検討したRCTにおいて,LDL-Cの変化,薬効分類で調整後のHDL-Cの変化と総死亡,CAD死,CADイベント(CAD死,非致死的心筋梗塞)の関連を検討する。
対象 29万9,310例(試験薬治療群14万6,890例,対照群15万2,420例)・108のRCT(3トライアルは3治療群での検討)。RCT:対象が心血管イベントのリスクを有するもの;脂質異常治療薬,食事療法 vs プラセボ,標準治療,あるいは積極的脂質異常治療 vs 通常脂質治療;心血管リスク低下を目的としたもの;比較治療群別の死亡率,心筋梗塞の結果が発表されているもの;追跡期間が6ヵ月以上のもの。
除外基準:HDL-C,LDL-Cのベースライン時,あるいは追跡時からの変化の記録がないものなど。
■RCT背景:スタチン系薬剤(vs プラセボ,通常治療54トライアル:pravastatin 22件,atorvastatin 11件,simvastatin 7件,lovastatin 7件,fluvastatin 6件,その他 1件);積極的スタチン治療 vs 非積極的治療8トライアル,フィブラート系薬剤(vs プラセボ,通常治療9トライアル:bezafibrate 4件,gemfibrozil 3件,fenofibrate 2件),レジン系薬剤(cholestyramine vs プラセボ,通常治療3トライアル),niacin+スタチン,フィブラート系,レジン併用(vs プラセボ,通常治療6トライアル),n-3脂肪酸(+すでに実施されている治療と併用 vs プラセボ,通常治療9トライアル),acyl-CoA: cholesterol acyltransferase(ACAT)阻害薬(vs プラセボ2トライアル:pactimibe 1件,ezetimibe 1件),probucol(vs プラセボ,通常治療2トライアル),グリタゾン系薬剤(vs プラセボ2トライアル:pioglitazone 1件,rosiglitazone 1件),ホルモン療法(vs プラセボ,通常治療9トライアル:estrogen[+progestin]8件,raloxifene 1件),CETP阻害薬(vs プラセボ2トライアル:torcetrapib 2件),食事療法/手術(vs 通常治療5トライアル:食事療法 4件,腸手術 1件)。
方法 Medline,Embase,Central(2003年1月~’06年10月),CINAHL,AMED(’06年10月まで)を検索。RCTの同定にはコクラン sensitive search strategiesを使用した。
脂質値の変化はベースライン時から追跡終了時の差の平均値とした。
治療群と対照群間のHDL-C,LDL-Cの変化の差とCADとの関連をみるため,分散の逆数重み付けによるメタ回帰分析を行った。特定の薬剤による脂質以外の影響(ホルモン療法による血栓促進の可能性など)も考慮し,解析に薬効分類のカテゴリ-変数も含んだ。
結果 [脂質値変化]
ベースライン時の加重平均値はLDL-C 140mg/dL,HDL-C 47mg/dL。
加重変化値はLDL-Cが-23mg/dL,HDL-Cが+1.7mg/dL。
n-3脂肪酸,グリタゾン系薬剤を除き,どの治療薬もLDL-Cを低下した。
n-3脂肪酸,低脂肪食事療法,ACAT阻害薬,probucolを除いた治療ではHDL-Cが上昇した。また,高用量スタチン治療(simvastatinまたはatorvastatin 80mg/日)では非高用量治療に比べわずかにHDL-Cが低下した(加重変化は-0.23mg/dL)が,スタチン全体ではやや上昇した(加重変化は+1.6mg/dL)。
[転帰]
メタ回帰解析
LDL-Cの低下は,HDL-Cの変化,薬効分類調整後,単変量,多変量いずれでもCAD,CAD死,総死亡の低下と関連した。
LDL-C 10mg/dLの低下によるCAD死の相対リスク低下は7.2%(95%信頼区間[CI]3.1~11.3%,P=0.001),CADは7.1%(4.5~9.8%,P<0.001),総死亡は4.4%(1.6~7.2%,P=0.002)。
一方,HDL-Cの上昇はLDL-Cの変化で調整後のCAD,CAD死,全死亡リスクとの有意な関連はみられなかった。
HDL-C 10mg/dL上昇により多変量解析後のCAD死のリスク比は+12.2%増大(95%CI -18.0~41.5%,P=0.42),CADは16%増大(-4.2~36.9%,P=0.12),総死亡は11.0%増大した(-6.5~28.1%,P=0.21)。
感度解析(sensitivity analysis)
単変量解析ではHDL-C 10mg/dL上昇によりCADのリスクは29%低下(-51.7~-6.6%,P=0.01)であったが,LDL-Cの変化を調整後はこの関連は弱くなった。このことから,CADリスクの低下はHDL-Cの上昇のみでなく同時にLDL-Cが低下することによるものであることが示唆される。
HDL-Cを上昇させるために行ったトライアル,intention-to-treat解析を行ったトライアルでもHDL-Cの上昇とCADリスクとの有意な関連はみられなかった。

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