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脂質低下治療と脳卒中の関係
meta-analysis

脂質低下治療のなかでスタチン系薬剤は致死的・非致死的脳卒中のリスク低下にもっとも有効だが,その有効性は総コレステロールおよびLDL-Cの低下率に比例する。しかし,致死的脳卒中のリスクについてはどの脂質低下治療でも低下しなかった。
De Caterina R et al: Cholesterol-lowering interventions and stroke: insights from a meta-analysis of randomized controlled trials. J Am Coll Cardiol. 2010; 55: 198-211. PubMed

コメント

血清コレステロール値と脳卒中発症率との関係は,必ずしも疫学的には確立されていないが,スタチンによるLDL-C低下療法が脳卒中予防を持つことを示唆する大規模臨床試験のサブ解析が数多く発表されてきた。スタチンによる大規模臨床試験のメタ解析では,脳梗塞に対する予防効果が証明された。このことは,スタチン治療には,スタチンが本来持つLDL-C低下効果以外の作用(pleiotropic effect)があるという議論を引き起こした。
本論文は,スタチン以外の脂質低下療法も含めたメタ解析を行い,コレステロール,LDL-Cと脳卒中予防効果の関係を解析したことが特徴である。その結果,スタチンによる脳卒中発症予防効果は確認され,他の脂質低下療法とは統計学的に有意に異なるという結果が得られている。しかし,この予防効果はコレステロール,LDL-Cの低下の程度に関連しており,むしろスタチンによるpleiotropic effectよりもLDL-C低下効果が脳卒中予防に関連していることを示すものと思われる。
もうひとつ重要な点は,脳卒中の発症予防には有効であるが,脳卒中死亡の予防効果は示せていない。この解釈は困難であるが,脳卒中死の数が少ないという点と必ずしも脳出血と脳梗塞が鑑別されていないということが決定的であろうと思われる。脳卒中予防にはLDL-C低下療法が有効であることは示されたが,LDL-Cと脳梗塞の関係については,今後も十分な検討が必要となろう(寺本)。

目的 血清コレステロール値と脳卒中の関係についてはこれまで議論が分かれていたが,2005年に発表されたスタチン系薬剤に関する14のランダム化試験(RCT)のメタアナリシスにおいて,LDL-Cの38mg/dLの低下で脳卒中リスクが17%低下することが示された(Lancet. 2005; 366: 1267-78.)。さまざまな脂質低下治療により冠動脈疾患は有意に減少することから,冠イベントにおけるコレステロールの因果的役割は明らかだが,脂質低下薬のなかで脳卒中予防効果が示されているのはスタチンのみであり,これには脂質低下作用以外のスタチンの作用(多面的作用)が関与しているとの説が唱えられている。スタチン以外の脂質低下治療を検証する臨床試験はサンプルサイズが小さいことから,βエラーを避けるため,脂質低下治療が脳卒中の発生に及ぼす効果および脂質低下の程度と脳卒中の減少との関係を評価するメタアナリシスを実施した。
特に次の3点を検証した:(1)脂質低下薬の脳卒中に対する効果はスタチン限定なのか,それともその他の薬剤,非薬物療法でも認められるか,(2)脂質低下治療の致死的/非致死的脳卒中に対する有効性に違いはあるか,(3)脳卒中リスクの低下が認められた場合,それは血中脂質値(総コレステロール[TC],HDL-C,LDL-C)低下の程度に比例するか。
対象 78試験 *26万6,973例。2009年4月までに発表された脂質低下治療と脳卒中に関するRCT。
*スタチン系薬剤49試験,フィブラート系薬剤13試験,食事療法7試験,その他の薬剤12試験,手術1試験(2治療法を検討したものが4試験)。
■患者背景:平均年齢61歳,男女比0.61,喫煙20%(71試験),糖尿病21%(70試験),高血圧47%(64試験),心筋梗塞既往27%(66試験),脳卒中既往3.4%(35試験),治療前の平均TC値224mg/dL。
方法 変量効果モデルを使用しMantel-Haenszel検定により,血清脂質に対する介入(スタチン系薬剤,フィブラート系薬剤,その他のコレステロール低下療法)の効果と95%信頼区間(CI)を算出。感度分析は,イベントに対するスタチン系薬剤の効果と説明変数の関連の強度で評価。各試験の対照群における死亡率に基づいた相対リスク(RR)により脳卒中のリスクに対する各治療の効果を評価。さらに逆分散重み付き線形回帰モデルによりコレステロール低下と全脳卒中の関係を検討した。
結果 平均追跡期間は3.5年。
総対象人数・年は94万6,582人・年。

[脂質低下治療と脳卒中の関係]
・脂質低下治療により脳卒中リスクは有意に低下した(オッズ比[OR]0.88;95%CI 0.83~0.94,P<0.001)。
・スタチン治療により脳卒中のリスクは有意に低下したが(OR 0.85;0.78~0.92,P<0.001),その他の治療では有意な低下は認められなかった(OR:フィブラート系薬剤0.98,食事療法,手術ともに0.92,その他0.81)。

[致死的/非致死的脳卒中に対する効果]
・致死的脳卒中については(66試験),脂質低下治療による影響(OR 0.99)もスタチン系薬剤(OR 0.98)またはその他の脂質低下治療による影響も認められなかった。
・非致死的脳卒中(44試験)は脂質低下治療により有意に減少した(OR 0.87;0.81~0.94,P<0.001)。また,スタチン系薬剤では非致死的脳卒中の有意な減少が認められたが(OR 0.81;0.74~0.89,P<0.001),その他の治療では認められなかった。

[感度分析]
対照群の死亡リスク,デザイン(オープン/盲検),臨床セッティング(一次予防/二次予防/混合),脳卒中の既往,TCおよびTG低下は試験結果に影響したが,試験期間,結果文献発表年,平均年齢,心筋梗塞既往例および糖尿病患者の割合,心不全,ベースライン脂質値などによる影響はみられなかった。

[血中脂質濃度の低下率と脳卒中との関係]
TCの低下率と脳卒中の低下率には有意な関係が認められ(P=0.0017),TC値が1%低下するごとに脳卒中リスクは0.8%低下した。LDL-Cについても同様の有意な関係が認められ,単変量解析ではLDL-C値が10%低下するごとに脳卒中のリスクが4%低下した。HDL-Cとの有意な関連はみられず,TGの変化とは一貫した関連性はみられなかった。


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