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スタチン系薬剤と糖尿病発症リスク
collaborative meta-analysis

スタチン治療により糖尿病発症リスクはわずかに上昇したものの,その絶対的リスクは低く,冠イベント抑制のベネフィットを上回るほどではなかった。
中等度~高リスク患者,心血管疾患合併例において,現行のスタチン治療を変更すべきではない。
Sattar N, et al. Statins and risk of incident diabetes: a collaborative meta-analysis of randomised statin trials. Lancet. 2010; 375: 735-42. PubMed

コメント

わが国では,スタチンによる糖尿病発症の問題が以前より議論されていたが,個々のケースの分析であり,国際的には十分な統計学的検討が行われていなかった。
本メタ解析は,これまでのスタチンを用いた大規模無作為臨床試験のメタ解析で,スタチン治療と糖尿病の新規発症の関係をみた初めての検討である。その結果,スタチンにより9%の有意な糖尿病発症の増加が認められた。そのまま解釈すれば,スタチンによる糖尿病発症という副作用があると考えることができる。しかし,9%という小さな増加をいかに考えるかという点が議論の的になっている。ほんの少しの変化でも数の力で統計学的には有意になってしまうという問題もあり,実臨床でどのように判断すべきか迷うところである。いずれにしても,副作用として耐糖能異常をもたらす可能性があるということを念頭において血糖やHbA1cなどを定期的に検討していく必要があるものと思われる。さらに重要なことは,糖尿病を引き起こしやすい背景として高齢者(>60歳)があげられており,高齢者においては十分な注意が必要であろう。また各スタチン間での違いは認められず,スタチンのクラス効果と考えていいようである。
しかし,先にも述べたごとく,その9%という発症率の差をどのように考えるかというこであるが,確かに副作用として考慮することはいいとしても,スタチンのもつ心血管イベントの抑制効果を否定するものではないことは,再認識する必要があるであろう。計算上,心血管イベントの抑制によるベネフィットと糖尿病新規発症というリスクを比較すると9:1になるという。したがって,スタチン治療は必要であるが,しっかり糖尿病の発症のチェックをしていくというスタンスでいいのではないだろうか?(寺本

目的 スタチン系薬剤は心血管イベントの予防に有効であり,一般に安全で忍容性に優れた薬剤とされているが,スタチン系薬剤服用患者の糖尿病発症リスクについては議論のあるところである。例えば,JUPITER試験ではrosuvastatin群の糖尿病発症率はプラセボ群よりも有意に高かったが,WOSCOPS試験ではpravastatin治療による糖尿病発症率の低下が示唆されている。
これらの背景から,スタチン系薬剤とプラセボまたは標準治療とを比較した大規模ランダム化比較試験(RCT)のメタアナリシスを実施した。
対象 13試験*・非糖尿病9万1,140例。
スタチン治療が心血管エンドポイントに及ぼす効果をプラセボまたは標準治療と比較したRCTで,対象者1,000例以上,スタチン群,対照群を1年以上追跡したもの。
異なるスタチン系薬剤同士のRCT,臓器移植あるいは血液透析の必要な症例を対象とした試験は除外した。
* ASCOT-LLA, HPS, JUPITER, WOSCOPS, LIPID, CORONA, PROSPER, MEGA, AFCAPS/TEXCAPS, 4S, ALLHAT, GISSI HF, GISSI Prevenzione
方法 Medline,Embase,Cochrane central register of controlled trials(1994~2009年)を検索した。検索用語は“statin”および個々のスタチン系薬剤の一般名。英語の論文のみ。
検索は2009年1月8日に実施。
結果

・平均追跡期間4年で糖尿病発症は4,278例(スタチン群2,226例,対照群2,052例)。
スタチン治療は対照治療にくらべ糖尿病発症リスクが9%増大(オッズ比1.09[OR] ; 95%信頼区間1.02-1.17): スタチン群 ; 12.23例/1000人・年, 対照群 ; 11.25例/1000人・年。
255人に4年間のスタチン治療を行うと,糖尿病が1例発症。
糖尿病発症は試験により違いがみられた(スタチン治療と糖尿病発症に正の関連がみられたのはJUPITER,PROSPERの2試験)が,試験間の異質性は低かった(I2=11%)。

・プラセボ対照RCT(7万5,507例)に限定しても,スタチン治療によるリスク上昇はみられた : OR 1.10 ; 1.01-1.20, I2=12%。
空腹時血糖値のみを使用したRCTのみでみると,関連度合いはわずかに減弱した(1.07 ; 0.97-1.17, I2=32%)。

・スタチン系薬剤による明確な違いは認められなかった。
脂溶性スタチン(1.10 ; 0.99-1.22, I2=0%), 水溶性スタチン(1.08 ; 0.98-1.20, I2=36%)。

・JUPITER,MEGAを除外しても,同程度のリスクであった(それぞれ,1.08 ; 1.01-1.15, I2=1.5%, 1.09 ; 1.01-1.18, I2=18.4%)。

・メタ回帰分析の結果,スタチンと糖尿病発症リスクの関連が最も大きかったのは高齢者(P=0.019)で,BMI(P=0.177),LDL-Cの変化(P=0.102)によるリスク上昇はみられなかった。


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