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急性心筋梗塞発症後の安定症例における梗塞責任血管へのPCIの有用性
meta-analysis

急性心筋梗塞(AMI)から12時間〜60日後の梗塞責任血管(IRA)へのPCIにより,心機能および生存率が有意に改善した。
Survival and cardiac remodeling benefits in patients undergoing late percutaneous coronary intervention of the infarct-related artery:evidence from a meta-analysis of randomized controlled trials. J Am Coll Cardiol. 2008; 51: 956-64.PubMed

コメント

本論文は,急性心筋梗塞発症後12時間以上経過した安定症例において,至適薬物治療に加えてPCIを施行するストラテジーと至適薬物治療のみを行うストラテジーを比較した10の無作為化試験のメタ解析である。
昨今はメタ解析全盛の時代である。論文を発表するのに最も手っ取り早い方法はメタ解析であるとまで言われている。ある仮説を検証するにあたって十分な検出力のある単一の無作為化試験がない状態でメタ解析は威力を発揮する。しかしながらメタ解析にはその信頼性を左右するいくつかの条件が存在する。すなわち,患者単位のデータに基づいた解析かどうか,対象となっている患者の背景が共通であるか,個々の無作為化試験の質はどうか,介入の方法や質が均質であるか,エンドポイントの定義は同一か,追跡期間は十分か,などなどである。
本論文では急性心筋梗塞発症後12時間以上経過した安定症例においてPCIの施行が生存率の改善をもたらすと結論している。一方で症例数が最大のOAT試験では生存率には全く差が認められていない。急性心筋梗塞発症後12時間以上経過した安定症例と言っても実際にはその病態は様々である。狭心症,心不全,虚血が明らかな患者や梗塞領域の心筋バイアビリティーの残存が確認されている症例においてPCIの効果が期待できることは当然である。生存率の改善を報告したSWISS-II試験では無症候性心筋虚血の存在を登録基準としているのに対して,生存率の改善を示すことができなかったOAT試験では梗塞後狭心症を有する患者や中等度以上の虚血を有する患者は除外されている。このように著しく患者背景の異なる研究を集めてメタ解析を行うことには大きな問題がある。また介入の質という観点からは,かなり施行時期の異なるPCIを同一の治療法として取り扱うことにも大きな問題がある。今回のメタ解析にはバルーンによるPTCAとベアメタルステントを用いたPCIが含まれているが,この間のPCIの成績向上は明らかであり,時代の異なる試験をメタ解析という方法論でまとめて結論を出すことは不適切である。
今回の報告を受けて,急性心筋梗塞発症後12時間以上経過した安定症例のすべてに対してPCIを施行すべきであるとの結論にならないことは自明である。診療の現場では従来と同様に,狭心症,心不全,虚血などの有無と梗塞領域の心筋バイアビリティーを考慮して,個々の患者のPCIの適応を検討するという方針に変化はない(木村)。

目的 AMI後の安定症例に対するPCI施行のリスク/ベネフィットはまだ明白ではない。
そこで発症から12時間以上経過した安定症例におけるIRAに対するPCI(late PCI)と従来の至適薬物治療を比較したランダム化試験(RCT)の系統的レビューとメタ分析を行った。
一次エンドポイントは全死亡。
二次エンドポイントは1) 死亡,非致死的AMI,2) 死亡,非致死的AMI,狭心症,心不全(HF)症状による再入院,3) 非致死的AMI,4) EF,左室収縮末期容積指数(LVESVI),左室拡張末期容積指数(LVEDVI)の変化。
対象 3,560例(late PCI群1,779例,薬物療法群1,781例):10のRCT*(うち多施設7試験)。
登録基準:RCT;late PCI vs 従来の薬物療法;血行動態安定患者;発症から12時間以上後の血管形成術。
除外基準:血行動態/臨床上不安定その他の緊急カテーテルの適応例の登録があるもの;重複発表;発症から12時間以内の患者の登録;進行中の試験。

* ALKKBRAVE-2,DECOPI,Horie et al,OAT(TOSCA-2),Silva et al,SWISSI II,TOAT,TOMIIS,TOPS

患者背景 平均年齢59歳。男性77%,EF 49%。発症から介入までの中央値は12日(1〜26日)。追跡期間42日〜10.2年(中央値平均2.8年)。血管造影上のPCI成功率88%(72〜100%)。
方法 2007年7月までに発表されたRCTをPubMed,CENTRAL,mRCT,BioMedCentral,Cardiosource,clinicaltrials.gov,ISI Web of Scienceより検索。
統計的不均一性は,I2 = 25%(軽度),50%(中等度),75%(重度)の3段階で評価。
結果 一次エンドポイントは,late PCI群112例(6.3%) vs 薬物療法群149例(8.4%)で,late PCI群は薬物療法群に比べ生存率を有意に改善した(オッズ比[OR]0.49;95%信頼区間[CI]0.26〜0.94,P = 0.030,I2 = 59%)。

複合エンドポイントも,late PCI群で薬物療法群に比べ減少した。
死亡,AMI再発:OR 0.70;0.40〜1.23(P = 0.22,I2 = 60%),死亡,AMI再発,狭心症/HFによる再入院:OR 0.66;0.40〜1.11(P = 0.12,I2 = 58%)。
心リモデリング:EFはlate PCI群で薬物療法群より有意に改善した(対象7試験。+4.4%;1.1〜7.6,P = 0.009,I2 = 95%)。LVEDVI(対象4試験**。−7.0mL/m2;−12.18〜−1.81,P = 0.008,I2 = 89%),LVESVI(対象4試験**。−7.5mL/m2;−12.61〜−2.47,P = 0.004,I2 = 89%)ともにlate PCI群で対照群よりも有意に低下した。
 ** Horie et al, Silva et al,SWISSI II,TOSCA-2

一次エンドポイントの感度分析においても,固定効果モデル(OR 0.74;95%CI 0.57〜0.95,P = 0.020,I2 = 64%),相対リスク0.52;0.29〜0.95(P = 0.030,I2 = 57%),リスク差−0.036;−0.068〜−0.005(P = 0.030,I2 = 65%)で有意差が確認された。
メタ回帰分析によると,PCIまでの所要時間と有効性とに有意な関連はなかった。追跡期間の長さとEFの変化に有意な逆相関(P = 0.001),死亡とは非有意な正相関(P = 0.072)がみられ,追跡期間が長くなるほどPCIの有益性が増大することが示唆された。試験デザインの特徴と結果とに関連はみられなかった。

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