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男女別にみる非ST上昇型急性冠症候群(ACS)における早期侵襲的治療と保存的治療
meta-analysis

非ST上昇型ACSにおいて,男性および高リスク女性では早期侵襲的治療は同様に死亡,心筋梗塞,ACSによる再入院を抑制する。一方,低リスク女性では保存的治療が有効である。
O'Donoghue M et al: Early invasive vs conservative treatment strategies in women and men with unstable angina and non-ST-segment elevation myocardial infarction: a meta-analysis. JAMA. 2008; 300: 71-80.PubMed

コメント

非ST 上昇型ACS に対する早期保存的戦略は,十分な薬物治療で病態を安定化させ,“不必要な”冠動脈造影や血行再建術を避けることで手技に伴うリスク回避や医療経済的なメリットがある。一方早期侵襲的戦略では,入院早期にリスクの層別化が可能で,軽症例については“不必要な”薬物治療や長期入院を避けられ,重症例では適切な薬物療法が選択でき,また機を逃す事なく血行再建術に移行できる。
1994年に発表されたTIMI IIIB試験以来,両戦略の優劣が無作為試験で検討されてきた。その多くの試験やメタ解析で早期侵襲的戦略の優位性が示され,2007年のACC/AHA ガイドラインでは高リスク症例(薬剤不応性狭心症,血行動態・電気的不安定,トロポニン陽性,心機能不良など)での早期侵襲的戦略がクラスIに分類され,薬物により安定化した症例でさえ,早期保存的戦略を“treatment option”と位置付けている。
今回のメタ解析は性別から治療戦略を検討するユニークな試みである。非ST 上昇型ACS 症例の年齢・既往歴や受診時の状況からリスクを層別化する幾つかのスコアリング(TIMI・GRACE・PURSUIT)が提唱されているが,いずれも性差は問われていない。これまでの無作為試験でも性別に関するサブグループ解析の結果はさまざまである。
メタ解析の結論は,CK-MB あるいはトロポニン上昇を高リスク群と分類した場合,「低リスク群の女性では早期保存的戦略がやや優る」であった。
結論の妥当性に関して,個々の症例ベースで検討されているわけではないメタ解析の限界は承知しつつも,いくつかの問題点を指摘しておきたい。

「ハイリスクグループの選定基準が適切だったか?」
心筋バイオマーカーの上昇と心電図変化(ST低下)をハイリスクの選定基準として解析されている。その結果心電図変化では差が出ず,バイオマーカーでのリスク評価において,女性のハードエンドポイント(死亡/MI)での有意な傾向(P for interaction; 0.08)を結論の前面に出している。しかし,全例トロポニンで評価されておらず(7割弱),CK-MB 時代のリスク層別化に疑問が残る。またバイオマーカー陽性例のみを登録基準としたVANQWISH,VINO,ICTUSが解析から除外されている。ICTUSでは両戦略に優劣がつかず,バイオマーカーだけでのリスク層別化は不適切と指摘されている点からも,ハイリスクグループの選定基準には臨床的指標も考慮すべきと考える。

「1年間のみのfollow-upで結論が出せるのか?」
試験ごとのエンドポイントが異なるためにやむを得ないが,短期間の評価では血行再建術に関連した死亡/MI が結果により大きく影響してしまう。本研究でも早期侵襲的戦略での死亡/MIが入院中は多く(OR, 1.37 ; 95% CI, 0.93-2.02),退院後は有意に少ない(OR, 0.72 ; 95% CI, 0.52-0.99)という結果であった。またRITA-3では1年間の死亡/MIに差がなかったが,5年後には9.6% 対14.5%と早期侵襲的戦略が圧倒している。従って,さらに長期で解析した場合には異なった結論となった可能性がある。

「現在の治療を反映する試験が選択されているか?」
非ST 上昇型ACS に対する血行再建,とくにPCI の成績はステントの登場・標準使用によって大幅に改善された。エントリーされた試験が若干異なるが,Mehta らのメタ解(JAMA 2005; 293; 2908-17)では,1999年以前にパブリッシュされた試験(TIMI IIIB,VANQWISH,MATE),すなわちステントがルーチンに使用されなかった時代の試験では両戦略の死亡/MI は同等(OR, 0.99 ; 95% CI, 0.81-1.21)であったが,それ以降のものでは早期侵襲的戦略が圧勝している(OR, 0.73 ; 95% CI, 0.63-0.85)。また時期を同じくして導入されたGp IIb/IIIa受容体阻害剤の有効性も指摘されている。

「女性の冠動脈病変の特徴は?」
早期侵襲的戦略のデータから,冠動脈病変は男性群で明らかに重症例が多い。また女性群では50% 狭窄以上の冠動脈病変を有さない症例が24%,ハイリスク群に限っても15%前後と男性群の約3倍であった。この解釈として,microvascular angina やスパスムによる心筋虚血の他,女性に多いとされるsyndrome X など非虚血性疾患が含まれていた可能性がある。こうした観点から,女性では早期保存的戦略が“有用”なのではなく,早期侵襲的戦略が“不要”な症例が含まれると考えればこの結果も理解できる。

ACS に対する治療法はこの20年で大きく変化している。強力な抗血小板剤やスタチンなどの薬物療法が徹底され,また冠動脈造影やPCI/CABG の器具・技術も進歩し,安全性も向上している。非ST 上昇型ACS に対する初期の戦略に関しては低リスク群も含め早期侵襲的戦略で決着した感もあるが,こうしたユニークな視点で新たなリスクファクターを模索するには,現状に即した改めての大規模臨床試験が必要と思われる(中野中村永井)。

背景

目的
不安定狭心症,非ST上昇型心筋梗塞(MI)患者では侵襲的治療が行われることが多い。しかし,この治療戦略は女性では有効ではないと示唆するトライアルもある。FRISC II,RITA 3は参加者全体では侵襲的治療が有効としたものの,サブ解析で女性において死亡,MIのリスクが増大することを示した。一方で,TACTICS-TIMI 18は男女ともに有効で,特に高リスク女性で有効性が顕著であると発表した。以上のように侵襲的治療の女性での有効性は明確ではない。しかしながら,一つのトラアイルからこの点を明らかにするには規模が十分ではない。
そこで,侵襲的治療のベネフィットとリスクを男女別に探索するためランダム化試験のメタ解析を行った。
対象 トライアルの登録基準は, 非ST上昇型ACSを侵襲的治療* ,保存的治療* にランダム化した比較試験。
* 侵襲的治療:全例に冠動脈造影を実施後,適応があれば血行再建術を施行,保存的治療:まず薬物治療を行い,虚血の再発あるいは非侵襲的負荷試験で虚血が誘発された症例のみ冠動脈造影を実施。
除外基準:主な対象が安定狭心症,急性ST上昇型心筋梗塞のトライアル,ピアレビューのないもの,全例に血栓溶解治療を行ったものなど。

調査方法:1970年〜2008年4月のMEDLINE,コクランデータベースで “invasive strategy”,“conservative strategy”,“acute coronary syndromes”,“non-ST elevation myocardial infarction”,“unstable angina”の用語で検索した。
・メタ解析に加えたのは下記8トライアル10,412例。
TIMI IIIB,MATE,VANQWISHFRISC II**, TACTICS-TIMI 18**,VINO, RITA 3**ICTUS**
** GP IIb/IIIa受容体拮抗薬投与

患者背景

女性(3,152例:侵襲的治療群1,571例,保存的治療群1,581例),男性(7,260例:3,641例,3,619例)。
女性の方が糖尿病,高血圧,高コレステロール血症の合併率が有意に高く,男性の方が喫煙例,MI既往例が有意に多かった。ST低下は男女同様であったが,陰性T波は女性の方が多く,心マーカー上昇例が男性で有意に多かった。有意病変を認めなかった症例(<50%狭窄)は女性で有意に多く(24% vs 8%),これはST-segment deviation例でも(16% vs 6%),マーカー上昇例でも(14% vs 6%)同様であった。一方,男性では3枝病変,左主幹部病変が多かった(35% vs 23%):いずれもP<0.001。

平均年齢:女性(侵襲的治療群64.4歳,保存的治療群63.8歳);男性(61.4歳,61.2歳),BMI(kg/m2):27.6,27.8;27.4,27.5,喫煙率:26.8%,31.9%;36.0%,35.5%,糖尿病:20.1%,18.7%;17.3%,17.3%,高血圧:52.4%,51.6%;40.6%,41.2%,MI既往:26.9%,23.1%;34.8%,33.8%,高コレステロール血症:47.9%,46.9%;39.9%,38.6%,ST低下:39.0%,38.6%;37.6%,37.3%,陰性T波:53.9%,53.9%;43.4%,43.3%,クレアチンキナーゼMBあるいはトロポニン上昇:42.5%,42.5%;55.3%,53.7%,病変なし:24%,−;8%,−,1枝病変:32%,−;28%,−,2枝病変:21%,−;29%,−,3枝病変:23%,−;35%,−。
結果

解析は10,150例(女性3,075例,男性7,075例)。 12ヵ月間の死亡,MI,ACSによる入院(複合エンドポイント)は侵襲的治療群1,075例/5,083例(21.1%)vs 保存的治療群1,313例/5,067例(25.9%):オッズ比(OR)0.78(95%信頼区間0.61〜0.98)。 保存的治療群と比べた侵襲的治療群の各ORは,死亡:0.97(0.71〜1.32),非致死的MI再発:0.84(0.63〜1.12),死亡/MI:0.92(0.69〜1.23),ACSによる再入院:0.68(0.55〜0.84)。

・男女別結果
複合エンドポイント:女性709例/3,075例(23%)vs 男性1,679例/7,075例(24%)。 侵襲的治療 vs 保存的治療のOR:女性0.81(0.65〜1.01)vs 男性0.73(0.55〜0.98)で,男女間に有意に不均質性はなかった(P for interaction=0.26)。 個々のイベントでみると,ACSによる再入院が侵襲的治療群で男女とも有意に抑制された。一方で,同治療の女性における死亡,非致死的MI,死亡/MIの抑制効果はみられなかった。 男性では非有意ながら,侵襲治療群で死亡,非致死的MI,死亡/MIのリスクが低下した。 死亡:1.11(0.72〜1.70)vs 0.89(0.58〜1.35),非致死的MI:0.93(0.59〜1.45)vs 0.81(0.59〜1.11),死亡/MI:1.02(0.67〜1.55)vs 0.87(0.61〜1.23),ACSによる再入院:0.68(0.54〜0.85)vs 0.66(0.54〜0.82)。

・高リスクサブグループ(バイオマーカー[クレアチンキナーゼMB,トロポニン]上昇例)
性にかかわらず,複合エンドポイントの侵襲的治療 vs 保存的治療のORは,0.59(0.51〜0.69)vs 非上昇例0.79(0.58〜1.06)で,侵襲的治療群が有効であった。 死亡/MIのリスクは侵襲的治療群で32%有意に低下(OR 0.68;0.56〜0.82)したが,マーカー非上昇群では低下しなかった(1.01;0.79〜1.28):P for interaction=0.03。
[男性]
侵襲的治療群は保存的治療群に比べ複合エンドポイントが有意に低下(0.56;0.46〜0.67),死亡/MIも抑制した(0.64;0.51〜0.81)。しかし,マーカー非上昇例では侵襲的治療の有意な有効性はみられなかった(0.72;0.51〜1.01):P for interaction=0.09。
[女性]
複合エンドポイントは侵襲的治療群で33%有意に低下(0.67;0.50〜0.88)し,男性でみられた有効性と同様であった。一方で,マーカー非上昇例では,不均質性は有意でなかったが(P for interaction=0.36),侵襲的治療の明白な有効性はみられなかった(0.94;0.61〜1.44)。
死亡/MIは有意ではないが同群で低下(0.77;0.47〜1.25)したが,非上昇例では有意ではないものの35%上昇した(1.35;0.78〜2.35);P for interaction=0.08。


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