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多枝病変におけるステントとCABGの比較
meta-analysis

多枝病変において,5年後の安全性はステントとCABGは同等であるが,血行再建術再施行,主要有害心・脳イベントはCABGが有意に抑制。
Daemen J et al : Long-term safety and efficacy of percutaneous coronary intervention with stenting and coronary artery bypass surgery for multivessel coronary artery disease: a meta-analysis with 5-year patient-level data from the ARTS, ERACI-II, MASS-II, and SoS trials. Circulation. 2008; 118: 1146-54.PubMed

コメント

本論文は,ステントを用いたPCIとCABGを比較する4つの無作為化試験の患者レベルデータに基づいたメタ解析である。PCIがCABGよりも低侵襲であることは自明であり,またベアメタルステントを用いたPCIにおいて再血行再建の頻度がCABGより高いことも疑う余地はない。一方で,PCIとCABGの安全性評価の観点から最も重要なエンドポイントは総死亡であり,いかに低侵襲であってもPCIの施行によりCABGを施行した場合に比べ有意に死亡率が増加するということであれば,多枝疾患に対してPCIを施行することは許容されない。
バルーンを用いたPCIとCABGの比較も含めて,これらの無作為化試験の結果は概ね一貫しており,多枝疾患に対するPCIとCABGの間で生存率には有意の差はないとしている。一方で,BARI試験のpost-hocのサブグループ解析で,治療中の糖尿病患者ではPCI群の患者の死亡率が有意に高いと報告され,この問題については現在に至るまで決着がついていない。
無作為化試験においてPCIとCABGの間で生存率の比較を行う際の問題点としては検出力の不足が挙げられる。生存率の比較を行うに十分な検出力を有する無作為化試験は未だ施行されておらず,個々の試験においてPCIとCABGの間で生存率に差がみられた場合に,それは仮説形成として捉えられるべきである。十分な検出力を有する単一の無作為化試験がない状況において,もっともエビデンスレベルの高いデータは,適切に施行されたメタ解析である。
今回報告されたメタ解析は患者レベルデータに基づいたメタ解析であり,試験の選択や統計学的方法論も妥当である。SOS試験において6年生存率がCABG群において有意に高いと報告されたが,今回のメタ解析ではPCIとCABGの間で生存率に差を認めなかった。検出力の差を考慮すると,SOS試験の結果は偶然の作用か,あるいは術者の技量などのSOS試験における特殊要因が作用した結果と考えるべきであろう。
糖尿病症例における5年間の死亡率はPCI群12.4%,CABG群7.9%と数字の上ではPCI群において高いが,統計学的に有意差はない(P=0.09)とされている。しかしながら本メタ解析においても糖尿病症例数はPCI群275例,CABG群268例と少数例であり,生存率比較についての検出力不足は明らかである。
薬剤溶出性ステントを用いたPCIとCABGを比較する無作為化試験として,SYNTAX試験,FREEDOM試験,CARDIA試験,COMBAT試験などが現在進行中である。FREEDOM試験およびCARDIA試験は糖尿病患者に特化した無作為化試験であり,特にFREEDOM試験は死亡/心筋梗塞/脳卒中というハードエンドポイントを評価するだけの検出力を有している。またSYNTAX試験も1800例規模の試験で約3割の患者が糖尿病患者である。将来,これらの試験結果が明らかになり,それを俯瞰的に観ることによって,糖尿病患者におけるPCIとCABGの生存率の議論に結論が出ることを期待したい(木村)。


背景

目的
多枝病変において,CABGはPCIと比べその完全血行再建達成率の高さからゴールドスタンダードと考えられていた。2003年に発表されたメタ解析によると,血行再建術再施行のCABG vs バルーンのリスク差は3年後34%であったが,ステント使用の場合は15%に低下した。安全性の点からみると,ARTS,ERACI-II,MASS-IIが5年間の追跡でCABGとステントの死亡は同様であるとしたが,SoSは6年後の生存率はCABGに比べPCIは有意に低いと発表した。そこで,これら4試験に参加した患者のデータを統合解析(pooled analysis)しCABGとPCI(ステント)の長期の安全性と有効性を評価する。
対象 3051例:ARTS試験1205例,ERACI-II試験450例,MASS-II試験408例,SoS試験988例。
CABG群1533例(ランダム化された治療法の施行率は96%),ステント群1518例(89%)。
患者背景

年齢(中央値)61.6歳,高コレステロール血症(ステント群60.1%,CABG群56.5%;P=0.051),aspirin投与(93.5%,90.2%;P=0.001),Ca拮抗薬投与(37.3%,40.2%;P=0.095),病変枝数:1枝(4.6%,3.0%);2枝(59.3%,57.0%);3枝(36.1%,40.0%):P=0.017,罹患病変枝:右冠動脈(74.2%,78.0%);左前下行枝(89.9%,91.8%;P=0.06);左回旋枝(63.2%,67.7%;P=0.009),完全血行再建達成率(62.0%,89.4%;P<0.001),入院期間(中央値:3日,8日;P<0.001)。

方法

臨床転帰はSoSを除く3試験の5年後の死亡,脳卒中,心筋梗塞(MI),血行再建術再施行(PCI,CABG),SoSは5年後の生存率のみのデータを含めた。

結果

5年後の死亡,MI,脳卒中の複合は,ステント群16.7% vs CABG群16.9%に差はなかった(ハザード比[HR]1.04;95%信頼区間0.86-1.27,P=0.69)。 4試験中,SoS試験のみがCABG群で死亡が抑制された(CABG群92.1% vs ステント群95.5%:HR 0.56;0.33-0.95,P=0.0074)。その他の試験は90.0% vs 91.2%(HR 1.15;0.86-1.52)。
血行再建術の再施行は,ステント群の方が有意に多かった:ステント群29% vs CABG群7.9%(HR 0.23;0.18-0.29,P<0.001)。
主要有害心・脳イベントリスクもステント群で有意に増大した:39.2% vs 23.0%(0.53;0.45-0.61,P<0.001)。

・糖尿病サブグループ
死亡率:ステント群12.4%(非糖尿病7.7%)vs CABG群7.9%(8.3%);P=0.09(P=0.55)。
死亡,脳卒中,MIの複合:21.4% vs 20.9%(P=0.9)。
血行再建術再施行:29.7% vs 9.2%(HR 0.18;0.11-0.29,P<0.001)。

・2枝病変 vs 3枝病変
5年後の死亡率:2枝病変(ステント群7.6% vs 7.3%,P=0.87),3枝病変(10.2% vs 9.5%,P=0.71)。
死亡,脳卒中,MIの複合:両群は同様。
血行再建術再施行:2枝病変(29.0% vs 7.2%,P<0.001),3枝病変(28.9% vs 7.8%,P<0.001)。


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