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多枝病変におけるPCI,CABG-患者背景は死亡に影響するのか
pooled analysis(collaborative analysis)

多枝病変において,長期死亡率はCABGとPCIは同等である。これは,大半のサブグループでも同様であるため,どちらの治療をチョイスするかは死亡以外の転帰に対する患者の希望にそうべきである。
死亡の観点からはCABGは糖尿病,>65歳でより良い選択といえそうである。
Hlatky MA et al: Coronary artery bypass surgery compared with percutaneous coronary interventions for multivessel disease: a collaborative analysis of individual patient data from ten randomised trials. Lancet. 2009; 373: 1190-7. PubMed

コメント

冠動脈インターベンションや冠動脈バイパス術において,糖尿病や病変枝数による転帰の違いは,統計的なパワーの不足からこれまでのランダム化比較試験では十分明らかにされていなかった。今回の検討では,多枝病変の冠動脈疾患について,BARI,ARTSなどの有名なランダム化比較試験の結果を含んでメタ解析が行われた。65歳以上,糖尿病で,冠動脈バイパス術の方が,バルーン血管形成術とベアメタルステントによる冠動脈インターベンションよりも,転帰が良好であることが示された(中村中野永井)。


目的 多枝病変におけるPCI,CABGの長期転帰(死亡,心筋梗塞[MI],狭心症,血行再建術再施行)への有効性の比較は,ランダム化比較試験(RCT),大規模登録研究,メタ解析で行われてきているが,糖尿病,病変枝数などの患者背景により異なる。しかし,十分な統計パワーをもつRCTはなく,メタ解析も発表された結果に一貫性がないサブグループで実施しており,さらに観察研究は治療選択のバイアスのため整合性がないなどにより,PCI,CABGを評価するのはたやすくない。
RCTに登録された個人データを集めたpooled analysisは,関心のあるサブグループの症例数が増え,治療効果のより明確な有効性をみることが可能である。1994年,2000年にベースライン時の背景による心血管治療の有効性の違いがcollaborative研究から発表されている。
今回,多枝病変患者におけるPCI,CABGの死亡抑制効果が患者背景により異なるかを評価するため,10のRCTのデータを使用したcollaborative analysisを実施した。
対象 7812例。多枝病変を対象とした10のRCT*
バルーン血管形成術によるPCI 6試験,ベアメタルステント4試験。
* ARTS(1205例・追跡期間5.1年),BARI(1829例・10.4年),CABRI(1054例・3.0年),EAST(392例・8.2年),ERACI-II(450例・5.0年),GABI(323例・13.0年),MASS-II(408例・5.1年),RITA-1(1011例・10.0年),SoS(988例・6.0年),Toulouse(152例・4.9年)。
■患者背景:年齢61歳(中央値):55歳未満(28%);55~64歳(38%);65歳以上(34%),女性23%,糖尿病16%,喫煙率25%,高血圧45%,高コレステロール血症52%,末梢動脈疾患(PAD)10%,不安定症状41%,MI既往45%,左室機能障害17%,3枝病変37%,近位左前下行枝51%,追跡期間5.9年(中央値),PCI群のステント植込み例1432/3841例(37%),CABG群の内胸動脈使用例2573/3087例(83%)。
方法

Medline,Embase,Cochrane databaseで,1966年1月~2006年8月に発表されたトライアルを,“angioplasty”,“coronary”,“coronary artery bypass surgery”の用語で検索した。
さらに参照文献リスト,学会の抄録,専門的アドバイザーによる文献目録をレビューした。
3年以上追跡しているトライアルとし,いずれかの手技と薬物治療を比較しているトライアル,PCIで2つの手技(バルーンとステント)の比較,CABGの2つの手技(内胸動脈グラフトと大伏在静脈グラフト)の比較試験は除外した。

層別化した変量効果(random effect)Cox比例ハザードモデルを使用して,ランダム化された治療の全死亡への影響および臨床背景との相互関係を検証した。解析はintention-to-treat。
各トライアルからの患者ごとのデータ(主要変数):年齢,性,人種,心危険因子(糖尿病,喫煙,高血圧,高コレステロール血症),臨床所見(安定あるいは不安定症状,MI既往,心不全既往,PCI・CABG既往,PAD),血管造影因子(左室機能障害,病変血管数,近位左前下行枝病変),ランダム化された治療,追跡時の転帰(死亡,MI,脳卒中,血行再建術再施行,最終追跡連絡,狭心症)。

結果 [主要アウトカム評価項目:全死亡率]
・全死亡は,PCI群628/3923例(16%) vs CABG群575/3889例(15%)で両群間差はみられなかった:ハザード比(HR)0.91;95%信頼区間0.82~1.02(P=0.12)。
(サブグループでの死亡率)
・年齢:55歳未満の死亡率はPCI群の方が低かった(PCI群88/1122例[7.8%] vs CABG群107/1063例[10.0%]:HR 1.25)。しかし,55~64歳(220/1456例[15.1%] vs 201/1477例[13.6%]),≧65歳(319/1341例[23.8%] vs 267/1347例[19.8%])ではCABG群の方が低かった(P=0.002 for interaction)。
・糖尿病合併例(1233例:PCI群618例,CABG群615例)での死亡率はPCI群よりCABG群の方が低かった(HR 0.70;0.56~0.87)。しかし,非糖尿病例では両群間差はなかった(HR 0.98;0.86~1.12,P=0.014 for interaction)。 
・病変血管数などその他のサブグループでは両治療群間に違いはみられなかった。
[副次アウトカム評価項目]
死亡,MIの複合(9試験の結果):両群間に有意差はなし(5年イベント率:PCI群16.7% vs CABG群15.4%:0.97;0.88~1.06,P=0.47)。
死亡,血行再建術再施行(9試験):CABG群の方が有意に低かった(24.5% vs 9.9%:0.41;0.37~0.45,P<0.0001)。
また死亡,MI,血行再建術再施行(8試験)も同群で有意に低かった(36.4% vs 20.1%:0.52;0.49~0.57,P<0.0001)。

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