日本のPCI 3試験統合コホートにおけるDAPTスコアの有用性の検証
pooled analysis
PCI施行の日本人において,DAPTスコアは虚血性および出血性イベントリスク例を良好に層別した。ただし,スコア高値例であっても虚血性イベントリスクは非常に低かった。
Yoshikawa Y, et al: Validating utility of DAPT score in a large pooled cohort from three Japanese PCI studies. Circulation. 2017 Oct 5. PubMed
目的 |
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DAPTスコア(DS*)はDAPT(Dual Antiplatelet Therapy)試験から作成されたPCI施行後の虚血・出血リスクを推定するツールである。しかし,その有用性を検証した外部試験は少ない。
日本人でのPCI試験を統合した大規模コホートにおいて,DSによる慢性期の虚血および出血リスクの層別化の有用性,および薬剤溶出性ステント(DES)留置後のDSに基づいたDAPT実施期間の延長がリスクを低下できるかを後ろ向きに検証する。
主要評価項目は,虚血一次エンドポイント(心筋梗塞[MI],ARC[Academic Research Consortium]定義のdefinite/ probable ステント血栓症[ST]の複合エンドポイント),出血一次エンドポイント(GUSTO基準中等度-重症)。
*-2-10ポイント(0:<65歳,-1:65-<75歳,-2:≧75歳,2:静脈グラフトに対するステント,うっ血性心不全(CHF)既往あるいはEF<30%,1:現喫煙あるいは1年以内の喫煙,糖尿病,AMI,ステント径<3mm,PCI・MI既往,paclitaxel溶出ステント)あり,DS=1はDS中等度,<1はDS超低値。 |
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対象 |
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12,223例・3研究*。DES留置成功例で13ヵ月後の虚血性・出血性イベント回避例,退院時のDAPT実施例。
■患者背景:DS高値(≧2)例:3,944例(32%),低値(<2)例:8,279例(68%)。
*CREDO-Kyoto registry cohort-2(Coronary REvascularization Demonstrating Outcome Study in Kyoto Registry PCI/ CABG registry cohort-2):多施設登録研究,2005年1月-’07年12月に初回血行再建術を施行した連続症例6,206例。追跡期間(中央値)は5.1年。
RESET(Randomized Evaluation of Sirolimus-Eluting Versus Everolimus-Eluting Stent Trial):2010年2月-7月に登録した2,975例におけるall-comerの多施設ランダム化比較試験(RCT);sirolimus溶出ステント群 vs everolimus溶出ステント(EES)群。追跡期間は3.1年。
NEXT(NOBORI Biolimus-Eluting Versus XIENCE/PROMUS Everolimus-Eluting Stent Trial):2011年5月-10月の登録3,042例におけるall-comerの多施設RCT;EES群 vs biolimus溶出ステント群。追跡期間は3.1年。 |
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方法 |
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3研究の患者個人データを統合し,13ヵ月以降36ヵ月後までの虚血性・出血性イベントリスクをDS別(高値 vs 低値)で比較し,両群でのDAPTの実施状況とリスクの関係を評価した。13ヵ月の時点でDAPTを継続していたDAPT実施群は9,371例(76.7%)だった。
DAPT実施期間の決定は医師に委ねられており,患者背景も異なるため,propensity score matchingコホート(5,704例)で探索的解析(長期DAPTと転帰の関係におけるDS高値 vs 低値)を実施した。
MIはCREDO-KYOTOではARTS(Arterial Revascularization Therapies Study)の定義を,RESET,NEXTではARCの定義を採用した。
虚血・出血一次エンドポイントおよび各エンドポイントの差をlog-rank検定で評価し,累積発症率をKaplan-Meier法で推定した。 |
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結果 |
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[患者背景:DS高値群 vs 低値群]
DS高値群よりも低値群のほうが高齢(62歳 vs 72-71歳[DAPT実施-非実施群]),女性(17-18% vs 29-30%),脳卒中既往(10-7.4% vs 12-9.4%),末梢動脈疾患(5.9-4.5% vs 7.2-6.2%),心房細動(5.3-6.9% vs 7.0-8.5%),悪性腫瘍(4.4-5.4% vs 8.4-9.5%),貧血(10-8.9% vs 12-9.7%)が有意に多かったが,発症時が急性心筋梗塞(19-29% vs 8.2-12%),糖尿病(68-63% vs 33-27%),現喫煙(46-53% vs 12-15%),CHF歴(16-13% vs 1.9-1.7%),EF<30%(5.2-5.0% vs 0.4-0.5%),MI既往(33-29% vs 16-11%),血液透析(6.2-3.7% vs 3.8-2.8%)は高値群のほうが有意に多かった。
手技背景としては,多枝病変(62-59% vs 53-52%)などの病変複雑度,ステント長>28mm(59-58% vs 46-45%)の使用はDS高値群のほうが多かった。
また,退院時の薬物治療実施率はDS低値群よりも高値群のほうが高かった(スタチン:73-66% vs 66-61%,β遮断薬:42-35% vs 30-28%,ACE阻害薬/ARB:68-69% vs 57-53%)。
[13ヵ月ランドマーク解析による臨床転帰:DS高値群 vs 低値群]
PCI施行から13ヵ月以降の累積3年虚血一次エンドポイント発症率は,DS高値群のほうが低値群よりも有意に高く(虚血イベント:57例[1.5%] vs 69例[0.9%],P=0.002),出血イベントは同群で非有意に低かった(81例[2.1%] vs 215例[2.7%],P=0.07)。
二次エンドポイントは,心臓死(2.0% vs 1.4%),MI(1.5% vs 0.8%),ST(0.7% vs 0.3%)の3年累積率は,高値群で有意に多かったが,非心臓死(2.4% vs 3.9%),GUSTO重症出血(1.0% vs 1.6%)は低値群で有意に多かった。
[13ヵ月後のDAPT実施,非実施による,propensity score matchingコホートの背景と転帰]
DS高値群1,590例(13ヵ月後のDAPT実施群:795例,非実施群:795例),低値群4,114例(それぞれ2,057例)。糖尿病,MI歴,脳卒中既往,透析,左主幹部病変へのPCIは前者に多く,AMI症例,肝硬変は後者で多かった。ステントタイプ,薬物治療も両群で相違が認められたが,これは新しい試験であるRESET,NEXTにおいてDAPT実施群がより多かったことによる。
DS高値群での3年累積虚血一次エンドポイントは,DAPT実施群のほうが非実施群より少ない傾向がみられた(0.9% vs 1.9%,P=0.10)が,出血一次エンドポイントに両群間差はなかった(1.9% vs 2.2%,P=0.76)。
一方で,DS低値群での3年累積出血一次エンドポイントはDAPT実施群のほうが多い傾向にあった(3.2% vs 2.3%,P=0.08)が,累積虚血一次エンドポイントは同等だった(08% vs 1.0%,P=0.51)。
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