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心血管リスクと血栓症
Cardiovascular Risk Factors and Venous Thromboembolism
meta-analysis

心血管疾患の危険因子は静脈血栓塞栓症(VTE)発症リスクの上昇と関連する。
Ageno W et al: Cardiovascular risk factors and venous thromboembolism: a meta-analysis. Circulation. 2008; 117: 93-102.PubMed

コメント

アテローム血栓症は動脈系の血栓性疾患,VTEは静脈系の血栓性疾患とされてきたが,両者のリスク因子は共通部分が多いことを示唆したメタ解析である。動脈系は血小板主体,静脈系はフィブリン主体の血栓とされるが,両者には共通の基盤があることが示唆される(後藤)。

目的 静脈血栓塞栓症(VTE)とアテローム性動脈硬化は異なる発症要因を有する全く別の2疾患と一般に考えられている。しかし,最近の研究によりVTEが無症候性/症候性アテローム性動脈硬化および心血管イベントのリスクを上昇させる可能性が示唆され,主要な心血管危険因子と静脈血栓症との関連を示唆する研究もある。
筆者らが先に行ったシステマティックレビュー,メタ解析の結果は,アテローム血栓性疾患の主な危険因子とVTEの発症が有意に関連することを支持するものであった。特に,肥満,糖尿病,低HDL-C,高トリグリセライド,高血圧とVTEとの有意な関連が認められた。
そこで心血管疾患危険因子とVTEの関連をメタ解析により検証する。
対象 63,552例。客観的に確認されたVTE症例における主要な心血管疾患危険因子(高血圧,肥満,糖尿病,脂質代謝異常,喫煙)を評価し,対照群を設けている21研究*

* 症例対照研究16,前向きコホート研究4,登録研究1。
対象数:86〜21,680例。年齢の登録基準に幅がある:<55歳が6試験,他の15試験は42〜70歳。登録基準が>45歳の研究:女性のみでの検討は8研究(うち5研究は15〜50歳),男性のみでの検討は3研究。VTEの危険因子の評価を目的とした研究は8研究。深部静脈血栓症のみが2研究。連続症例を登録したのは4研究。

方法 対象はMedline(1966〜2006年6月)およびEMBASE(1980〜2006年6月)の検索により選別。各研究の症例群および対照群についてベースライン時の特徴(筆頭著者,文献発表年,デザイン,登録数,平均年齢,年齢のばらつき,性別),危険因子(収縮期/拡張期高血圧,高コレステロール血症,高トリグリセライド血症,糖尿病,肥満,喫煙の患者数および割合)を収集。
研究の質は以下の各事項で前者をhigher qualityとした。
コホート研究:前向き>後ろ向き,症例対照研究:VTE発症に対する危険因子の影響の検討を目的としたデザイン>退院/入院記録から推定したVTE症例のコホート内症例対照,危険因子:評価方法の十分な報告>結果報告のみ,患者登録:連続患者>非連続患者。
各試験についてオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を算定し,変量効果モデルを用いて比較。χ2およびI2により統計的不均一性を評価。
結果 VTEに対する肥満(BMI>30kg/m2)の影響
・該当9研究(症例対照研究8,コホート研究1。うちhigher quality研究5):症例群8,125例,対照群23,272例。
肥満は症例群8.3% vs対照群3.6%(OR 2.33;95%CI 1.68〜3.24)であり,研究間に明らかな統計的不均一性が認められた(I2 = 84.5%,P<0.00001)。

VTEに対する高血圧の影響
・該当10研究(症例対照研究7,コホート研究3):症例群12,813例,対照群29,742例。
高血圧とVTEの間に正の関連がみられたのは高血圧の定義を>140/90mmHgとした1研究のみであった(その他の研究の定義は>160/90mmHg)。
高血圧例ではVTEのリスクがやや高く(OR 1.51;95%CI 1.23〜1.85),研究間の統計的不均一性はI2 = 52.4%(P = 0.03)であった。

VTEに対する糖尿病の影響
・該当9研究(症例対照研究6,コホート研究3。うちhigher quality研究5):症例群5,990例,対照群50,367例。
糖尿病例で1.4倍のリスク上昇が認められ(OR 1.42;95%CI 1.12〜1.77),研究間に統計的不均一性はなかった(I2 = 15.2%,P = 0.31)。

VTEに対する喫煙の影響
・該当10研究(症例対照研究7,コホート研究3):症例群3,760例,対照群34,520例。
喫煙の影響は認められず(OR 1.15;95%CI 0.92〜1.44),研究間に有意な統計的不均一性が認められた(I2 = 81.6%,P<0.00001)。

VTEに対する高コレステロール血症の影響
・該当4研究(症例対照研究4):症例群1660例,対照群6233例。
高コレステロール血症の影響は認められず(OR 1.16;95%CI 0.67〜2.02),研究間に有意な統計的不均一性を認められた(I2 = 76.3%,P = 0.005)。

VTEに対する脂質値の影響
・HDL-C(症例対照研究4,コホート研究1:症例群895例,対照群9841例)はVTE例で有意に低かった(加重平均差[weighted mean difference:WMD]−2.86mg/dL;95%CI −4.34〜−1.38,I2 = 18.5%,P = 0.30)。トリグリセライド(症例対照研究8,コホート研究2)はVTE例で高かった(WMD 17.48mg/dL;95%CI 9.64〜25.31,I2 = 57.0%,P = 0.01)。
総コレステロール(症例対照研究8,コホート研究2:症例群1,707例,対照群31,429例),LDL-C(症例対照研究3:症例群237例,対照群272例)とVTEに関連はみられなかった。

各危険因子についてhigher qualityの試験間では均一性が高く,VTEとの関連の有意性が維持された。

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