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aspirinの心血管疾患一次予防
Antithrombotic Trialists':ATT
collaborative meta-analysis

aspirinの心血管疾患一次予防効果はベネフィット(閉塞性イベント抑制)/ リスク(重大な出血)比を考慮すると,総合的な有用性は確定できなかった。現在進行中のトライアルの結果が待たれる。
Antithrombotic trialists' (ATT) collaboration: Aspirin in the primary and secondary prevention of vascular disease: collaborative meta-analysis of individual participant data from randomised trials. Lancet. 2009; 373: 1849-60. PubMed

コメント

本研究は2002年にBMJに公表されたATTのメタ解析に引き続くATTの研究である。本研究では出血性合併症が不可避な抗血小板薬の適応を「抗血栓のメリット」と「出血のデメリット」から総合的・定量的に決定することを試みた意欲的な研究である。
過去に心筋梗塞などの疾病の既往のある症例における「二次予防」についての有用性は,少なくとも欧米人には確立されたものと考えられる。一方,これらの疾病の既往のない症例における「一次予防」効果の有用性については,十分に検討されていなかった。本研究では「一次予防効果の有無」を検証して,6つのランダム化比較試験に登録された95,000例,16の「二次予防試験」に登録された17,000例を比較したところ,一次予防試験では「出血性合併症の増加」を超える「抗血栓のメリット」は明確ではないとされた。aspirinは安価,安全な薬剤ではあるが,aspirinであっても「一次予防」ではみだりに使用すべきでないことを定量的に示した価値の高い臨床研究である。(後藤

目的 冠動脈疾患(CAD),脳血管疾患などの症例では,心血管イベントリスクがaspirinなどの長期抗血小板治療により1/4低下することが,1994年*,2002年**のATTのメタ解析として発表され,二次予防におけるaspirin介入のベネフィット(非致死的イベント,血管死抑制)はリスク(消化管あるいは頭蓋外大出血)を実質的に上回ったとしている。
しかしながら,aspirinの一次予防における有用性は明確にはなっていない。高齢者やCAD高リスク例の一次予防における確実なベネフィット/リスクを比べることができず,また出血リスクの増大するサブグループを確定できなかった。
現行ガイドラインは出血リスクの差を深慮せず,中等度リスク上昇例には一次予防のための使用を推奨している。さらにリスクは年齢が主な決定因子のため,ある年齢を超えた全例に実質的なaspirin単独投与,併用投与を提唱している。
ガイドラインが参照している解析に限界があることを鑑み,個人データに基づくcollaborative meta-analysisを行った。
* BMJ. 1994; 308: 81-106
** BMJ 2002;324:71-86
対象 ・一次予防6*試験(9万5,000例)。
* British Doctors’ Study,PHS,Thrombosis Prevention Trial,HOT,PPP,WHS
対象患者:1000例以上の非糖尿病患者で,治療予定期間が>2年の試験。
除外患者:動脈硬化,血栓性疾患の既往。
・二次予防16試験(心筋梗塞[MI]既往例が対象のもの6試験,脳卒中あるいは一過性脳虚血発作[TIA]10試験)。
2002年発表のATTに組み込まれたもの;MI,脳卒中,TIAの既往を対象とした試験。
方法 aspirin群 vs apirin非投与群(いずれの群にもその他の抗血小板薬は非投与)を比較したランダム化試験で,一次予防,二次予防を検討したものとした。
結果 [一次予防]
66万人・年の追跡で,重篤な血管イベント(MI,脳卒中,血管死[突然死,肺塞栓症,出血])が3554例発症。
aspirin群1671例(0.51%/年) vs 対照群1883例(0.57%/年)で,aspirin群で12%低下した:率比(RR)0.88(95%信頼区間[CI]0.82-0.94,P=0.0001)。
これはおもに非致死的MIの抑制によるものであった:0.18%/年 vs 0.23%/年;0.77(0.67-0.89,P<0.0001)。
・各血管イベントの結果は以下の通り。
主要冠イベント:0.82(0.75-0.90),CAD死:0.95(0.82-1.10),全脳卒中:0.95(0.85-1.06),脳出血:1.32(1.00-1.75),脳梗塞;0.86(0.74-1.00),原因不明の脳卒中:0.97(0.80-1.18),血管死:0.97(0.87-1.09),全死亡:0.95(0.88-1.02),頭蓋外大出血(消化管出血):1.54(1.30-1.82)。
(サブグループ)
年齢,性別,既往:血管疾患;糖尿病;高血圧,血圧,脂質,BMI,5年間のCAD発症リスクによるサブグループ間に有意な結果の違いはなかった(全体の不均一性:P=0.7)。
・<年齢>65歳未満:0.35%/年 vs 0.40%/年:0.87;0.78-0.98,65歳以上:1.37%/年 vs 1.53%/年:0.88;0.77-1.01。
・<5年間のCAD発症リスク><2.5%:0.26%/年 vs 0.30%/年;0.87(0.76-0.99),2.5~5%:1.02%/年 vs 1.23%/年;0.82(0.68-0.98),5~10%:2.04%/年 vs 2.28%/年;0.89(0.73-1.09),≧10%:3.59%/年 vs 3.44%/年;1.07(0.76-1.50)。

[二次予防]
43,000人・年の追跡で重篤な血管イベント3306例発症。
aspirin群6.69%/年 vs 対照群8.19%/年とaspirin群で抑制された:0.81(0.75-0.87,P<0.0001)。脳出血の有意な増加は認められず,全脳卒中および冠イベントの抑制が認められた。
・各血管イベントの結果は以下の通り。
主要冠イベント:0.80(0.73-0.88),非致死的MI:0.69(0.60-0.80),CAD死:0.87(0.78-0.98),全脳卒中*:0.81(0.71-0.92),脳出血:1.67(0.97-2.90),脳梗塞:0.78(0.61-0.99),原因不明の脳卒中:0.77(0.66-0.91),血管死:0.91(0.82-1.00),全死亡:0.90(0.82-0.99),頭蓋外大出血(消化管出血):2.69(1.25-5.76)。
* >84%が脳梗塞,TIA既往の再発高リスク例

・脳卒中に関して一次予防,二次予防を総合すると,aspirinは脳出血のリスクを増大させたが(1.39;1.08-1.78,P=0.01),脳梗塞は抑制した(0.83;0.73-0.95,P=0.005)。

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