白衣効果の影響度には年齢が関係するが,CVDリスクとは関連しない。大半の白衣高血圧例におけるCVDリスクは,年齢,リスク調整後の正常血圧例と同等である。
Franklin SS et al on behalf of the IDACO investigators: The cardiovascular risk of white-coat hypertension. J Am Coll Cardiol. 2016; 68: 2033-43. PubMed
コメント
白衣高血圧(WCH)の概念は1988年にPickeringによって提唱された概念である(JAMA. 1988; 259: 225-8. PubMed)。当初は無害で治療の必要はないと考えられてきた。しかし,私は高齢者のWCHは必ずしも無害ではないことをすでに24年前に発表した(Hypertension. 1993: 22: 826-31. PubMed)。
Franklinらの11のコホートIDACO(International Database on Ambulatory Blood Pressure Monitoring in Relation to Cardiovascular Outcomes)を用いての解析結果は,心血管予後を決定するのは,WCHの有無というよりも年齢やリスク因子の有無であることを示した。
WCHと心血管イベントの関係は,高リスクの高齢者でのみ有意な関連があるが,低リスク高齢者ではその関連は消失するというサブ解析結果ではあるが,加齢とリスク上昇は不可分であり(P for interaction=0.044),切り離しての解釈は難しい。
本論文の特徴として,白衣高血圧と白衣効果(WCE)を明瞭に区別していることが挙げられるが,白衣効果とは診察室血圧-24時間血圧の昼間血圧である。加齢とともにWCEの頻度は増加することを示した。つまり高齢になるにつれ血管が硬くなるために,血圧変動が大きくなることでWCEも起こりやすくなるということである。
私の見解を言わせてもらうと,WCHは無害か有害かの議論はもう不毛であると考えている。心血管疾患発症の予後に関しては,家庭血圧や24時間血圧のほうが診察室血圧よりも予測能が高いことがこれまでの多くの追跡研究で示されていることから,家庭血圧や24時間血圧の絶対値そのものと,心血管リスクの有無が予後を決定するものである。WCHやWCEは相対的な概念である。
したがって本論文から学ぶことは,外来で血圧が上昇しやすい高齢者は,(血管が硬いために)心血管発症リスクも高いという情報である。(桑島)
目的
Thomas Pickeringが白衣高血圧(WCH)を発表してから32年が経過した(Hypertension. 1984; 6: 574-8. PubMed)。最近の研究から加齢に伴いWCHが増加することが示唆されているものの,心血管疾患(CVD)発症リスクに対する影響は明確ではない。さらに昼間の自由行動下血圧,降圧薬使用を問わず医療環境下で血圧が上昇する白衣効果(WCE)はWCHとは異なるが,CVD発症への影響はいまだ明らかになっていない。また,住民ベースでWCH例におけるCVDリスク上昇の可能性を検討した研究もない。
住民ベースのコホート研究の国際共同データベースであるIDACOのデータを使用して,未治療のWCHと正常血圧例の昼間の自由行動下血圧(ABPM)を比較するメタ解析を実施した。