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頸動脈内膜-中膜肥厚(IMT)の改善と心血管イベント抑制は関連するのか?
meta-analysis

循環器治療薬による頸動脈IMTの退縮あるいは進展抑制は心血管イベントの抑制と関連しなかった。
Costanzo P et al: Does carotid intima-media thickness regression predict reduction of cardiovascular events? A meta-analysis of 41 randomized trials. J Am Coll Cardiol. 2010; 56: 2006-20. PubMed

コメント

頸動脈のIMT増大は心血管イベント,特に脳血管イベントに対するより強い関連因子と考えられている。IMT増大はイベント発症前の動脈硬化病態を反映すると考えられ,非侵襲的で繰り返し計測できるため中等度~高リスク患者でサロゲートエンドポイントや治療目標として普及している。
本研究は,種々の治療による頸動脈IMTの退縮が実際の脳心血管イベントの抑制と相関しているか否かをメタ解析で初めて検討した。結果としては,IMT(meanでもmaxでも)の変化度(退縮,進展抑制)は主要心血管イベントの抑制度と相関しないことが明らかになった。すなわち,どの治療薬においても一次予防でも二次予防でもIMTの変化度ではその治療薬の心血管イベント抑制効果を予想できないことを示している。IMTはヨーロッパ高血圧ガイドラインでは臓器障害の指標と位置づけられているが,介入試験においてサロゲートエンドポイントや臨床的有用性の指標として用いるには問題が残されている。左室肥大やミクロアルブミン尿のような他の臓器障害の指標ではこれらが改善することで心腎疾患が改善することが示されている。IMT計測が体の動脈硬化度のリスクマーカーとして代用できるか否かについてはさらなる検討が必要であろう。
IMT増大のプロセスは複雑であり動脈硬化危険因子のみに依存していない。IMT増大は多因子により規定されているので,血圧やLDLなどの直接的な危険因子の介入試験ではIMT変化と臨床効果が関連しない可能性がある。頸動脈病変と冠動脈病変は必ずしも一致していないとする報告は少なくなく,頸動脈壁の性状は全身の動脈壁の性状を反映していないのかもしれない。頸動脈のIMTよりもプラークの方がより代表的な動脈硬化指標であるとする報告もある。IMTとLDLの両変化の間には関連がないこと,冠動脈疾患例のIMTは収縮期血圧の変化に影響されることより,IMTは動脈硬化プロセスよりもシアストレスや血管壁反応性と関連する可能性がある。本研究はメタ解析であるので,直接に頸動脈IMT(meanやmax)あるいはプラークや他の血管壁性状指標の変化と心血管イベント効果そのものを対比しうる大規模試験を行えば今回の結果はより明確になる。冠動脈壁の不安定病変を頸動脈の壁性状から類推しうる真の指標を明らかにすることが期待されている。(星田


目的 頸動脈のIMT増加は冠動脈疾患(CAD),脳血管疾患(CBV)リスク増大と関係するが,IMTの改善が予後の改善を反映するかは明確ではない。
中等度~高リスク患者において,脂質低下治療,降圧治療,糖尿病治療,抗酸化薬の有効性を検討したいくつかのランダム化比較試験(RCT)では,IMTの変化(退縮,進展抑制)をサロゲートエンドポイントとして検討している。しかし,イベントの結果は報告されているものの,IMTの変化が心血管イベントの危険因子の変化と相関するかをみている試験はない。
そこで,IMTの退縮,進展抑制と主要心血管イベントの抑制とが関連するかを検証するため,RCTのメタ解析を実施した。
対象 41*のRCTの対象18,307例:平均追跡期間は2.4年,平均年齢58歳,女性43%。
メタ解析に加えるRCTの登録基準:ベースライン時および追跡終了時の頸動脈IMTの測定値があるもの;主要心血管エンドポイント(急性冠症候群,CAD死,血行再建術,狭心症を含むCADイベント;一過性脳虚血発作,脳卒中を含む脳血管[CBV]イベント;全死亡)が報告されているもの;実薬 vs 実薬あるいは実薬 vs プラセボ,または実薬の異なる用量を比較したもの。
除外基準:長期間追跡していない観察試験,断面観察試験。

* 脂質低下治療21試験(ACAPS,ARBITER,FIELD,RADIANCE,SANDSなど),降圧治療8試験(ELSA,MIDAS,STARR,VHASなど),糖尿病治療4試験,抗酸化薬4試験,その他4試験。
スタチン治療に割り付けられたものは9,313例,その他の薬剤あるいはプラセボ投与が8,994例。

方法 MEDLINEデータベース,コクランデータベース,Institute for Scientific Information(ISI) Web of Scienceで2009年8月までに発表された文献を検索した。
MEDLINEはPubMedで次の見出しで試験を検索した:IMT, carotid atherosclerosis, 3-hydroxy-3-methylglutaryl-coenzyme A (HMG-COA) reductase inhibitor, statin, lipid lowering, fibrate, nicotinic acid, a:cholesterol acyltransferase (ACAT) inhibitor, cholesteryl-ester transfer protein (CETP) inhibitor, diet, life-style, antihypertensive, angiotensin-converting enzyme (ACE) inhibitor, calcium-channel blocker, angiotensin-receptor blocker, antidiabetic agent, insulin, diuretic, beta-blocker, alpha-antagonist, randomly, random, randomized controlled trials, atherosclerosis。
平均・最大IMTの変化と転帰の関連は加重変量効果(random-effect)メタ回帰解析で行った。さらに患者背景,心血管リスク因子,ベースライン時・追跡時のIMT,試験の質の影響も探索した。全体の効果の推定は固定効果(fixed effect)モデル,変量効果モデル,Peto法で算出。
結果 [メタ回帰解析]
・全データを統合した(pooled)場合,平均・最大IMTの変化とCAD,CBVイベント,CAD+CBV複合エンドポイント,全死亡との間に有意な関連は認められなかった。
ハードエンドポイント(心臓死,心筋梗塞,脳卒中)にしぼってみても,有意な関連はなかった。
IMTとイベントとの関連に影響する可能性のある因子(年齢,性,BMI,喫煙,糖尿病,高血圧,ベースライン時から追跡終了時の達成脂質・血圧値の違いなど)でみても有意な関連はみられなかった。
・一方,メタ回帰解析の結果,LDL-CとCADイベント,複合エンドポイントとの間には有意な関連が認められ,CBVイベントとは関連する傾向がみられた。
しかしながら,平均・最大IMTの変化とLDL-Cの変化とには有意な関連はみられなかった。

[感度解析]
IMTの変化と一次予防(23試験),二次予防(18試験),脂質低下治療(21試験),降圧治療(8試験),糖尿病治療(4試験),抗酸化治療(4試験)の転帰とは,全体のpooled解析同様,有意な関連は認められなかった。
IMTとイベントとの関連に有意に影響した因子は,一次予防試験の収縮期血圧のみであった。

[転帰解析]
メタ解析に組み入れた全試験を統合すると,治療により全死亡のリスクが有意に低下した(オッズ比0.71;95%信頼区間0.53-0.96,P=0.03,heterogeneity P=0.91)。
治療によりCADイベント(0.87;0.74-1.03,P=0.09,heterogeneity P=0.03),CBVエンドポイント(0.90;0.77-1.05,P=0.08,heterogeneity P=0.09),CAD+CBV複合エンドポイント(0.90;0.77-1.05,P=0.19,heterogeneity P=0.05)は抑制の傾向がみられ,有効性を示せなかったCETP阻害薬,ACAT阻害薬の試験を除外すると有意な抑制が認められた:CAD(0.82;0.69-0.96,P=0.02,heterogeneity P=0.11),CBVエンドポイント(0.71;0.51-1,P=0.05,heterogeneity P=0.31),複合エンドポイント(0.84;0.72-0.99,P=0.04,heterogeneity P=0.19)。
ベースライン時の患者背景,リスク因子,ベースライン時・追跡時のIMT,トライアルの質は,IMTとイベントとの関連に影響しなかった。


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