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中等度以上のCKDと慢性収縮性心不全合併患者におけるβ遮断薬のベネッフィットとリスク
meta-analysis

慢性腎臓病(CKD)と慢性収縮不全合併患者において,β遮断薬は死亡を予防する。一方,心不全を合併していないCKD患者におけるβ遮断薬の有効性に関し結論を出すにはエビデンス不足である。
Badve SV, et al. Effects of Beta-adrenergic antagonists in patients with chronic kidney disease a systematic review and meta-analysis. J Am Coll Cardiol. 2011; 58: 1152-61. PubMed

コメント

重症の収縮性心不全(左室駆出率が低下)に対するβ遮断薬の予後改善効果は確立しているが,これまでの臨床試験では重度腎機能障害例は試験から除外されることが多かったため,CKDを合併した収縮性心不全患者に対するβ遮断薬の効果をみたランダム化比較試験は比較的少なく,合併例にβ遮断薬を投与すべきかどうか明確でなかった。
本メタ解析の成績は,CKD合併の収縮性心不全にβ遮断薬が有効であることが示された。この有効性は透析例でも確かめられたため,CKD合併の収縮性心不全に積極的に投与すべきと考えられる。しかし,透析患者では,低血圧が発生しやすいので透析中の血圧や徐脈には十分留意する必要がある。一方,心不全のないCKD症例にβ遮断薬が有効か否かは,データ不足のため結論が出ていないのは残念である。(

目的 慢性腎臓病(CKD*)は先進国の罹病率が8-12%と重大な公衆衛生
問題となっている。透析患者を含むCKDの死亡リスクは高く,透析非導入CKDの心血管イベントリスクは推算糸球体濾過量(eGFR)と逆相関する。また透析を導入している末期腎症の死因の35-40%は心臓関連である。2010年に発表されたメタ解析によると,eGFR<60mL/分/1.73m²は全死亡,心血管死の独立した予測因子である。
β遮断薬は慢性収縮不全患者において心筋梗塞後の死亡を抑制することが示され,ガイドラインもその使用を推奨しているが,ランダム化比較試験(RCT)ではCKD患者は除外されている。進行したCKD患者は虚血性心疾患,うっ血性心不全,不整脈,左室肥大の合併率が高いことから,これらの症例でのβ遮断薬の有効性が期待されるが,透析例でのβ遮断薬の使用は日本の10%からアメリカの60%とばらつきがある。RCTの実施まで透析患者でのβ遮断薬の使用を増やすべきだとする研究者たちもいる。
透析導入患者を含むCKD ステージ3-5の患者において,β遮断薬の臨床エンドポイントに対する有効性を検証するためにシステマティックレビュー,メタ解析を行った。
*eGFR<60mL/分/1.73m²,高蛋白尿(≧250mg/日)あるいは尿中アルブミン-クレアチニン比≧30mg/g。
主要評価項目:全死亡。
その他の評価項目:その他の全臨床転帰(心血管死,突然死,全入院,心不全増悪による入院,有害イベント)。
対象 6,949例・RCT 8件*(プラセボ対照6試験・慢性収縮不全5,972例,ACE阻害薬対照2試験・非心不全977例):透析例は慢性収縮不全のトライアル1試験のみで114例。
試験登録基準:RCTであること;透析例を含むCKDの病期がステージ3-5(eGFR≦60mL/分/1.73m²)で,経口β遮断薬をプラセボ,その他のクラスの心血管治療薬,非治療と比較したRCTでβ遮断薬にランダム化されたもの;3ヵ月以上追跡されたもの;死亡の結果が報告されたもの。
除外基準:腎移植例。
*CIBIS II,MERIT-HF,SENIORS,AASK,統合解析(CAPRICORN,COPERNICUS)など。
方法 PRISMA(preferred reporting items for systematic reviews and meta-analysis)声明に従って,システマティックレビューを実施した。
Medline via Ovid,Embase (開始-2010年10月),CENTRAL(issue 4, 2010)を検索。
結果 [心不全を合併したCKD患者]
β遮断薬はプラセボに比べ全死亡,心血管死,突然死を抑制したが,徐脈,低血圧が増加した。
・全死亡(6試験):β遮断薬群412/2,868例 vs 対照群568/2,834例:相対リスク0.72;95%信頼区間0.64-0.80(P<0.001)。
試験間の異質性はみられなかった(I²=0%,P=0.601)。
post-hocの5サブグループ解析による交互作用は認められなかったことから,CKD例と非CKD例の治療効果に差はないことが示された。
・心血管死(4試験):228/1,699例 vs 314/1,685例:0.66;0.49-0.89(P=0.006)。
中等度の異質性がみられた(I²=64.2%,P=0.045)。
透析例を含んでいた1試験を除外しても,全体の結果に有意な違いはなく(0.72;0.64-0.81,P<0.001;test for heterogeneity: I²=0%,P=0.435),心血管死へのβ遮断薬の有効性はより明らかで除外前の結果と一致していた(3試験・非透析例3,270例:0.76;0.64-0.90,P=0.001;test for heterogeneity: I²=0%,P=0.92)。
・突然死(4試験):0.70;0.55-0.89,P=0.004;test for heterogeneity: I²=0%,P=0.491。
・全入院(2試験):0.75;0.52-1.08,P=0.121;test for heterogeneity: I²=67.1%,P=0.050。
・治療中止(3試験):159/1,141例 vs 143/1,146例:1.17;0.66-2.09,P=0.585;test for heterogeneity: I²=59.2%,P=0.086。
・徐脈(4試験):122/1,699例 vs 24/1,685例:4.92;3.20-7.55(P<0.001;test for heterogeneity: I²=0%,P=0.838。
・低血圧(4試験):159/1,699例 vs 30/1,685例:5.08;3.48-7.41,P<0.001;test for heterogeneity: I²=0%,P=0.941。
・高カリウム血症(3試験):27/1,351例 vs 5/1,329例:2.16;0.12-37.92,P=0.6;test for heterogeneity: I²=68.2%,P=0.076。

[非心不全のCKD患者:2試験]
ベースライン時背景(eGFR,血圧目標)に違いがあり,1試験のほうが規模が大きく(比重96.3%),心血管死の報告は1試験しかなく,さらに治療中止,高カリウム血症のデータも1試験しかなく,定量的メタ解析はできなかった。


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