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心不全患者におけるβ遮断薬試験の転帰に対する試験実施国の影響
meta-analysis

心不全患者においてβ遮断薬はプラセボに比べ死亡を有意に抑制する。
アメリカで登録された患者ではβ遮断薬の死亡への効果が小さくなった一方,アメリカ以外の地域ではβ遮断薬の有効性は全母集団と変わらない。
O'Connor CM, et al. Influence of global region on outcomes in heart failure Beta-blocker trials. J Am Coll Cardiol. 2011; 58: 915-22. PubMed

コメント

β遮断薬が心不全の予後を改善することは確立しているが,これまで実施された臨床試験を解析すると米国内のデータではβ遮断薬の有用性が証明されていないことが明らかになった。BEST試験は,米国の黒人の比率が大きく,黒人に対してbucindololが有効でなかったため試験全体でも有用な成績が得られなかったとされているが,β遮断薬が効かない遺伝子多型(α2c Del322-325など)が多く含まれている集団には,無効という結論が出てしまうのはよく理解できる。この他にも,患者の背景因子が異なる場合,β遮断薬以外の治療(ICDやCRT治療など)が集団によって異なる場合は確かにβ遮断薬の有効性に差異が出てくる可能性は少なくないと考えられる。いずれにしても,米国ではβ遮断薬の予後改善効果が,他の国々に比し小さいのは事実のようである()。


目的 心不全に関する大規模なランダム化比較試験のほとんどが世界的規模で行われるようになっているが,参加国間には医療制度,診療パターン,標準診療,遺伝的特徴,病因,合併疾患の違いがみられる。心不全や急性冠症候群における地域による臨床転帰の違いを示す試験もあるが,地理的な差異のみに起因するのか,標準診療の差異,遺伝的特徴,統計の偶然,その他の要素によるものであるかは明らかではない。
β遮断薬はプラセボに比べ心不全患者の死亡,合併症を抑制することが示されているが,大半の患者がアメリカ以外の国々で登録された国際共同試験MERIT-HF,CIBIS-II,COPERNICUSではプラセボと比べたβ遮断薬の死亡リスク低下は各34%(metoprolol),34%(bisoprolol),35%(carvedilol)と有意であった一方,患者のおよそ98%をアメリカで登録したBESTでは13%(bucindolol)と有意差がなかった。
これらの試験の登録患者の特徴と転帰を評価し,地理的多様性による転帰の差異が存在するかについて検証した。
対象 8,988例。3試験(MERIT-HF,COPERNICUS,BEST)の登録患者。無作為割付け・プラセボ対照・二重盲検・多施設試験で,心不全患者においてβ遮断薬を評価し,一次エンドポイントを死亡率として,intention-to-treat解析,アメリカで患者登録を行ったもの。
死亡率の全般的な評価(アメリカ+アメリカ以外の国:ROW)にはCIBIS-II(2,647例,全例がROWの登録)を含め,感度解析ではBESTおよびCIBIS-IIを除外し,SENIORSおよびU.S.Carvedilol Heart Failure Studiesを含めた。
方法 心不全患者の死亡率に対するβ遮断薬の有効性を検討した大規模試験(phase III,無作為割付け,二重盲検,プラセボ対照,多施設)をPubMedで検索し,適合した6試験のうち,一次エンドポイント(心不全患者の生存率)および登録患者(アメリカの患者を含む)から3試験をメタ解析した。各研究について刊行されたデータ(およびBESTデータベース),FDAの文書(COPERNICUSのデータソースとした)を使用し,各試験および全試験(CIBIS-IIを含む)でのアメリカの登録患者,ROWの登録患者,全登録患者のそれぞれに関し総死亡率を評価した。
結果 全登録患者のコホートにおいて,β遮断薬(carvedilol,metoprololのいずれも)のプラセボと比べた有意な死亡率の低下が認められた。これに対し,アメリカで登録された患者コホート(4,198例[46.7%])ではいずれのβ遮断薬による死亡の相対リスク(RR)の低下も小さくなり有意差が消滅した一方,ROWではβ遮断薬によるベネフィットおよび有意差は維持された。
CIBIS-II を含めたpooled analysis(11,635例)における死亡のRRは,β遮断薬はプラセボに比べ23%低下した(0.77;95%信頼区間0.71-0.84,P<0.0001)。これに対し,アメリカのコホートではβ遮断薬によるRRの低下が小さく有意差がなかった一方(RR 0.92;0.82-1.02,P=0.11),ROWではβ遮断薬によるベネフィットが維持された(0.64;0.56-0.72,P<0.0001)。
感度解析においてBEST,CIBIS-IIを除外しても,結果および統計的結論の強度は変わらなかった。
結論 アメリカで登録された心不全患者ではβ遮断薬の生存率に対するベネフィットが小さくなった一方,アメリカ以外の地域におけるβ遮断薬の有効性は全母集団と同様であった。このような治療反応に対する地理的差異は,母集団の違い,遺伝的特徴,疾患管理における文化的・社会的な違い,あるいは検出力の低さ,統計の偶然による可能性がある。

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