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他の脂質異常を伴わない低HDL-C血症と冠動脈疾患
meta-analysis

他の脂質異常を伴わない低HDL-C血症(単独低HDL-C血症)はアジア人に比較的多い新しいタイプの脂質異常症であり,冠動脈疾患リスク上昇と関連する。
Huxley RR, et al.; for the Asia Pacific cohort studies collaboration and the obesity in Asia collaboration. Isolated low levels of high-density lipoprotein cholesterol are associated with an increased risk of coronary heart disease: An individual participant data meta-analysis of 23 studies in the Asia-Pacific region. Circulation. 2011; 124: 2056-64.PubMed

コメント

アジアにおけるコホート研究のメタ解析である。アジアでは低HDL-C血症を示す割合が高く,単独で低HDL-C血症を示すケースも白人に比較すると多い。このような群では心血管病発症リスクが高く,興味深いことにLDL-Cの高値とほぼ同等であるということである。裏を返せば,高LDL-C血症がさほどリスクとしてはきいていない可能性が示唆される。
このメタ解析には,日本も含まれている。アジア全体では低HDL-Cの頻度が1/3とされているが,わが国では16.3%であり,アジアの中でも特異であることは認識しておく必要があろう。問題となるのはインド,シンガポール,韓国であり,26.2%から48.9%と高頻度であり,このようなヘテロな集団を単純にメタ解析するには問題があるように思われる。低HDL-C血症が比較的低頻度の中国,日本,香港,オーストラリアを除くとより明確な差が出てくるのではなかろうか?(寺本


目的 過去の研究から,脂質異常のなかでもHDL-Cの低下のみを認めるタイプの脂質異常症が存在し,冠動脈疾患リスクに関連すること,またとくにアジア人に多いことが示唆されている。そこで,アジア人に多くみられる低HDL-C血症は脂質異常症に分類されるものなのか,冠動脈疾患(CAD)および脳卒中のリスクと関連するか,単独低HDL-C血症に特徴的な臨床像があるのかを評価するため,アジア-太平洋地域における前向きコホート研究および横断研究の大規模コラボレーションであるAsia Pacific Cohort Studies Collaboration(APCSC)とObesity in Asia Collaboration(OAC)のデータを用いてメタアナリシスを実施した。
エンドポイントは,致死的または非致死的CADおよび脳卒中。
対象 37研究,22万60人(アジア人*87%)。
* 参加者が中国,香港,インド,日本,北朝鮮,フィリピン,シンガポール,韓国,台湾,タイで募集された場合は「アジア人」,オーストラリア,ニュージーランドで募集された場合は「非アジア人」に分類。
[APCSC]24研究・69,145人。5,000人・年以上の追跡を行い,ベースライン時の年齢,性別,血圧と試験終了時の生存状況が記録された前向き研究。空腹時血清脂質値は参加者のおよそ93%,コレステロール測定法はおよそ70%で報告され,ほとんどの研究で喫煙状態も報告された。
[OAC]13研究・150,915人。年齢,性別,体重,身長,腹囲,臀囲,空腹時血糖値,血圧,脂質(総コレステロール,HDL-C,LDL-C,トリグリセライド[TG]のうち少なくとも1つを測定)情報のある研究。
除外基準:脂質値に関する情報がないもの。
■患者背景:年齢(男性:アジア人46.7歳,非アジア人48.5歳;女性:46.4歳,48.1歳),TG(131.08,133.74;109.82,111.60mg/dL),HDL-C(両群とも47.95;55.30,59.16mg/dL),LDL-C(121.04,140.76;117.94,134.96mg/dL),BMI(23.4,26.3;23.1,25.7kg/m²),腹囲(82.5,93.8;74.5,81.4cm),血圧(125.9/78.7,132.1/79.4; 123.5/75.9,125.8/72.1mmHg),喫煙率(50.4%,23.3%;6.9%,17.5%),糖尿病(5.6%,4.4%;4.9%,4.6%)。
方法 National Cholesterol Education Program (NCEP) Expert Panel on Detection, Evaluation, and Treatment of High Blood Cholesterol in Adults (Adult Treatment Panel III) ガイドラインを使用して,低HDL-C血症(男性<39.83mg/dL,女性<50.27mg/dL),高LDL-C血症(≧160.09mg/dL),高TG血症(>200.17mg/dL)を特定。参加者をHDL-C正常,単独低HDL-C血症,他の脂質異常血症を伴う低HDL-C血症(低HDL-C血症に高LDL-C血症または高TG血症を合併)の3群にわけて解析。
感度分析は,研究および性別で層別後,年齢と収縮期血圧で調整して,喫煙/非喫煙,アジア人/非アジア人で実施。
二次解析として,低HDL-C血症を改変WHOガイドライン(男性<38.67mg/dL,女性<34.80mg/dL)またはEuropean Group for Insulin Resistance(EGIR)ガイドライン(<38.67mg/dL)に従って分類した場合の評価も実施。
結果 追跡期間(中央値)はアジア人6.6年,非アジア人8.3年。

[単独低HDL-C血症の有病率]
低HDL-C血症はアジア人の33.1%(95%信頼区間32.9-33.3),非アジア人の27.0%(26.5-27.5)に認められた(P<0.001)。単独低HDL-C血症はアジア人のほうが非アジア人よりも多かった(22.4%[22.2-22.5] vs 14.5%[14.1-14.9],P<0.001)。

[CAD,脳卒中との関連性]
6.8年の追跡で,CADは574例(アジア人42%),脳卒中は739例(76%)。
・CAD
他の脂質異常症を伴う低HDL-Cは,HDL-C正常にくらべてCADのリスクが高かった(ハザード比1.57;95%信頼区間1.31-1.87)。この関係は性別,アジア人/非アジア人,喫煙状況を問わず認められた。
アジア人における単独低HDL-C血症とCADリスクとの関係(1.67[1.27-2.19])は,非アジア人(0.79[0.54-1.14])よりも強く(地域の交互作用P=0.016),他の脂質異常症を伴う低HDL-C血症(1.63[1.24-2.15])と同程度であった。
・脳卒中
性別,喫煙状況,地域を問わず,脳卒中と他の脂質異常を伴う低HDL-C血症(0.95[0.78-1.17]),単独低HDL-C血症(0.81[0.67-1.00])との有意な関連性は認められなかった。

[臨床的特徴]
性別や地域を問わず,低HDL-C血症はHDL-C正常にくらべてBMIと腹囲が大きく,糖尿病患者が多かった。血圧と喫煙状況はHDL-C値とは関連しなかった。

[二次解析]
WHOまたはEGIRの低HDL-C血症の定義を用いた場合も,結果は変わらなかった。


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