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経口抗凝固療法の自己モニタリング
meta-analysis

経口抗凝固療法の自己モニタリングにより血栓塞栓イベントは有意に減少したが,死亡および大出血は減少せず。自己モニタリングは,年齢を問わず適応患者にとって安全な選択肢である。
Heneghan C, et al.; Self-monitoring trialist collaboration. Self-monitoring of oral anticoagulation: systematic review and meta-analysis of individual patient data. Lancet. 2012; 379: 322-34. PubMed

コメント

新規経口抗凝固薬が多数出現したが,抗トロンビン薬であっても抗Xa薬であっても重篤な出血性合併症の増加の問題を解決することはできていない。いずれの試験においても対象群はPT-INR 2-3を標的としたワルファリン治療であり,なおかつ試験期間全体のうち65%程度の時間しかPT-INRは治療標的に入っていない。PT-INRは多くの症例では比較的安定しているが,一部の症例ではばらつきが大きい。また,他の薬剤服用開始時などにはPT-INRが変動する可能性が高いので自己測定によりPT-INRを頻度高く計測すれば,出血イベントリスク,血栓イベントリスクともに,新規経口抗凝固薬と同様「標準化」できる可能性がある。注意しなければならないことは,いかに頻度高くPT-INRを計測しても,抗凝固薬を服用する限り,何も服用しない時よりは出血イベントリスクが増加することは受け入れざるを得ないということである。
本論文にて示された「血栓塞栓イベントリスクの低下」は抗凝固治療の「標準化」により達成可能であっても,「重篤な出血イベントリスクは標準化により達成できない」ことは,新規経口抗凝固薬の結果と同様である。自己モニタリングによるワルファリンの「標準化」と新規経口抗凝固薬の差異は最終的には「コスト解析」によることになるかもしれない。(後藤


目的 経口抗凝固療法を受ける患者は増加しているものの,INRを狭い治療域に維持するためには頻回な検査と適切な用量の調節が必要になることが壁となっている。そのため,信頼性が高い正確なpoint-of-careデバイスが登場し,自宅での自己測定が可能となった。自己モニタリングには,自己測定結果を医療者に相談する「自己測定(self-testing;糖尿病患者の血糖値測定など」と,自己測定結果をもとに患者自身が抗凝固薬の用量を調節する「自己管理(self-management;計測値に基づいて患者自らが服薬量を決定する)」がある。これらは血栓塞栓イベントや死亡リスクを抑制する安全な介入であり,INR治療域維持時間も長いことが示されているが,方法論的な問題などから未だ明確な結論は出ておらず,導入状況も国によってさまざまである。そこで,経口抗凝固療法自己モニタリングの有用性を明らかにするため,ランダム化比較試験(RCT)のメタ解析を実施した。
主要評価項目は,死亡,大出血初発,血栓塞栓イベント初発までの時間。
対象 11試験*,6,417例(自己モニタリング群3,266例,対照群3,151例)。抗凝固療法の自己検査**または自己管理(自己検査**+自己投与の有効性を,対照検査+医療施設による投薬と比較したRCTで,血栓塞栓イベントおよび大出血の臨床転帰を報告したもの。抗凝固療法の適応疾患は問わず,成人対象の試験のみを選択。言語制限は設けなかった。
* 米国3試験;ドイツ2試験;オーストリア,カナダ,デンマーク,オランダ,スペイン,英国各1試験。
** 使用された検査機器は, Coaguchek(Roche Diagnostics社,スイス),Pro time microcoagulation(ITC Nexus Dx社,米国),Coumatrak monitor(Du Pont Pharmaceuticals社,米国)。
■患者背景:平均年齢65歳,女性22%,心房細動53%;機械弁35%;その他12%。
年齢は17-94歳と幅があり,自己検査・管理群は対照群より1.7歳有意に若かった。
方法 Ovid版Embase(1980-2009年)およびMedline(1966-2009年)を検索。Cochrane Central Register of Controlled Trials,Cochrane Library 2009年第2号,Cinahl(1982-2009年),進行中または未発表の試験も検索し(UK National Research Register and Trials Centralなど),選択した文献の参考文献をハンドサーチ。
選択した文献の著者から個別の患者データを取得。あらかじめ指定したサブグループ解析(年齢,対照ケア[抗凝固専門外来 vs プライマリケア],自己検査 vs 自己管理,性別)を実施。抗凝固療法の適応(機械弁,心房細動,その他)は個別に解析した。
結果 追跡は12,800人・年。

[主要評価項目]
血栓塞栓イベントは自己モニタリング群で有意に低下したが(ハザード比0.51;95%信頼区間0.31-0.85,P=0.010;I ²=52.6),大出血(0.88;0.74-1.06,P=0.18;I ²=0)と死亡(0.82;0.62-1.09,P=0.18;I ²=37.0)は有意な低下は認められなかった。
血栓塞栓イベント1件を予防するための治療必要数(NNT)は,1年後78,5年後27。

[サブグループ]
血栓塞栓イベントの著明な低下が認められたのは,年齢<55歳(0.33;0.17-0.66,P=0.002;I ²=0)(1年後のNNTは21),機械弁使用患者(0.52;0.35-0.77,P=0.001;I ²=0)であった。≧85歳の超高齢者(99例)での解析では,すべての転帰において自己モニタリングの有害作用は示されず,解析対象者は少なかったものの(75例),死亡率の低下が認められた(0.44;0.20-0.98,P=0.044;I ²=0)。

[出版バイアス]
funnel plotの非対称性はみられず,Begg検定でバイアスは示されなかった(血栓塞栓イベントP=0.35,大出血P=1.00)。

(収載年月2012.04)
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