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CVD治療薬のアドヒアランスと転帰
meta-analysis

心血管治療薬のアドヒアランス不良例は多い(40%)。EUの住民に当てはめると,全CVDの約9%がアドヒアランス不良によるものと推定された。アドヒアランス良好例は不良例にくらべCVDリスク,全死亡リスクが有意に低かった。
Chowdhury R et al: Adherence to cardiovascular therapy: a meta-analysis of prevalence and clinical consequences. Eur Heart J. 2013; 34: 2940-8. PubMed

コメント

服薬アドヒアランスが薬物治療の有効性を左右することは世界共通である。アドヒアランスが悪いとよくなる病気もよくならないことは,医療へのアクセスがよく医療資源が使いやすい先進国ではより問題である。実際,2人のうち1人は長期間の服薬アドヒアランスが十分ではないと報告されている。心血管系薬剤(スタチン,降圧薬,抗血栓薬)は世界中で最もありふれた薬物治療であり,アドヒアランス不良は病気の増悪や死亡と関連する。服薬が不十分であることにより,どの程度相対的・絶対的な心血管イベント率が増加するかは明らかではない。患者背景・アドヒアランス計測法・薬剤の種類による服薬率やアドヒアランス不良によるリスク増加の検討が必要であるが,これまでエビデンスレベルの高い報告は少ない。本研究はこの目的のため過去52年間に発表された論文を系統的に調べ,prospectiveコホートの44研究をメタ解析した。アドヒアランス良好の基準を80%以上服用と規定すると60%の人が該当し,アドヒアランスが良好であれば冠動脈疾患例は20%,全死亡は38%低下すると考えられる。アドヒアランスの計測方法やカットオフ値を変えても同様の結果である。
一般にアドヒアランス不良の要因としては,健康に対する関心が低い,社会的ステータスが低い,併発疾患の存在,薬剤種類が多い,効果が不確かである,コストが高い,副作用がある,などである。心血管薬のアドヒアランスが良好であれば臨床的有用性が増すことは明らかであり,たとえば4年間スタチンでLDL-Cを39mg/dL低下させると全死亡が13%低下すると報告されている。スタチンや降圧薬を服用する人が世界的には今後さらに増加することが想定されているので,アドヒアランスの問題はより重要である。アドヒアランス不良を適切に把握しないと,より高用量の薬が処方され,副作用や誤診断,不要な治療が増加する。今回の検討では薬剤別にアドヒアランスが良好な率が異なっており,薬の種類による継続のしやすさが異なるかもしれない。さらに,服薬継続率の良いアスピリンではアドヒアランス良好例が必ずしも心血管病発症や全死亡を低下させていないので,アスピリンの適切な投与量の問題を再認識させられる。薬剤間や薬剤の投与量でアドヒアランスの程度の臨床的意義は異なると考えられ,日本における同様の検討に期待したい。(星田


目的 心血管治療薬(スタチン,降圧薬,aspirin,抗糖尿病薬)のアドヒアランス不良は,人口レベルで疾患の増悪や死亡の一因となる可能性がある。米国では過去20年間で冠動脈疾患(CAD)死が約50%減少したが,この減少の約半分はこれらの薬物治療によるものと推定されている。しかし,心血管疾患(CVD)の一次予防,二次予防でのこれら薬剤のアドヒアランスは57%程度との報告があり,アドヒアランス不良によるCVDの相対的・絶対的リスクも明らかでない。
本メタ解析では,心血管治療薬のアドヒアランス不良によるCVDの絶対リスク差を推定し,アドヒアランス良好による将来のCVD,全死亡リスクを定量化する。
対象 44研究*・197万8,919人。≧18歳において,心血管治療薬のアドヒアランスとCVD(致死的・非致死的CAD,脳卒中,心臓突然死)または全死亡リスクの関係を推定した前向き研究(コホート,コホート内症例対照,臨床試験)。
* 欧州17研究・100万2,095人(50.6%),北米21研究・92万373人(46.5%),アジア-太平洋3研究・42,916人(2.2%),複数国3研究・13,535人(0.7%)。
■背景:平均追跡期間3.2年。平均年齢63.1歳,男性55.2%,高血圧22.6%,高コレステロール血症45.5%,CVD既往25.8%,スタチン63.4%,降圧薬23.8%,抗血小板薬0.6%,抗糖尿病薬0.1%,併用12.2%。
方法 MEDLINE,Web of Science,EMBASE,Cochrane databasesを検索(1960年1月-2012年8月)。言語制限なし。
アドヒアランス≧80%を良好,<80%を不良と定義。
結果 [アドヒアランス]
データが得られた34研究(123万382人)における心血管治療薬のアドヒアランス良好例は60%(95%信頼区間52-68%)。薬剤別では,スタチン(12研究)54%,降圧薬(11研究)59%,aspirin(2研究)70%,抗糖尿病薬(2研究)69%。

[アドヒアランスと有害転帰]
・CVD(33研究・161万5,126人)
CVD発症は13万5,627例。心血管治療薬のアドヒアランス良好例は,不良例にくらべCVD発症リスクが有意に低かった(相対リスク[RR]0.80;95%信頼区間0.77-0.84;I ²=96.2%)。
薬剤別の結果は下記の通り:スタチン(0.85;0.81-0.89),降圧薬(0.81;0.76-0.86),aspirin(0.60;0.31-1.16)。
・全死亡(23研究・53万3,381人)
全死亡は94,126例。心血管治療薬のアドヒアランス良好例は不良例にくらべ全死亡リスクが有意に低かった(0.62;0.57-0.67;I ²=96.1%)。
薬剤別の結果は下記の通り:スタチン(0.55;0.46-0.67),降圧薬(0.71;0.64-0.78),aspirin(0.45;0.16-1.29)。

[絶対リスク差]
上記のRRと欧州連合(EU)の住民におけるCVD自然発症率をもとに算出したアドヒアランス不良例の絶対リスク差(10万人・年あたりの症例数)は,心血管治療薬が13例,スタチンが9例,降圧薬が13例。処方例におけるアドヒアランス不良例の割合を40%と想定すると,全CVDイベントの9.1%がアドヒアランス不良によるものと推定された。

[出版バイアス]
スタチンのアドヒアランスとCVD発症の研究(Begg検定P<0.05)を除き,出版バイアスは認められなかった。

(収載年月2013.10)
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