拡張性心不全と収縮性心不全の生存率の比較
pooled analysis
EFが保持された拡張性心不全患者は,年齢,性別,心不全の原因を問わず,EFが低下した収縮性心不全患者よりも死亡リスクが低い。
Meta-analysis global group in chronic heart failure (MAGGIC). The survival of patients with heart failure with preserved or reduced left ventricular ejection fraction: an individual patient data meta-analysis. Eur Heart J. 2012; 33: 1750-7. PubMed
目的 |
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従来,心不全は収縮機能の低下とみなされてきたが,左室駆出率(EF)がほぼ正常の収縮機能が保持された心不全,すなわち拡張性心不全(HF-PEF)が心不全患者のかなりの割合を占めることがわかってきた。EFが低下した収縮性心不全(HF-REF)にくらべHF-PEFは高齢で女性が多く,薬物治療実施率が低いことなどが分かってきたが,生存率に関しては複数の研究で比較されているものの,結果は一貫していない。2009年に発表されたメタ解析*ではHF-PEFはHF-REFよりも死亡率が低い可能性が示されたが,患者レベルのデータ不足のために年齢,性別,合併症,心不全の原因などの重要な変数が調整されていない。
個別の患者データを用いたpooled解析により,HF-PEFとHF-REFの死亡率を比較した。 |
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対象 |
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31研究**・41,972例(HF-PEF:10,347例,HF-REF:31,625例)。対象に心不全患者を含み,全死亡の報告があり,EFを対象選択基準としていない観察研究およびランダム化比較試験(RCT)。
** 薬物治療のRCT:3試験,管理方法のRCT:4試験,観察研究:24研究。
■患者背景:平均年齢†(HF-PEF 群71歳,HF-REF 群66歳),女性†(50%, 28%),既往(高血圧†:
51%, 41%, 心筋梗塞†: 27%, 51%, 心房細動†; 27%, 18%, 糖尿病: 23%, 24%; P=0.005),
虚血性心不全†(43%, 59%), 薬物治療(ACE阻害薬/ARB†: 44%, 75%, β遮断薬†: 33%,
39%, 利尿薬†: 78%, 83%, spironolactone†: 16%, 24%, digoxin†: 32%,
47%), NYHA心機能分類I/II/III/IV度(14/48/29/9%, 10/46/37/7%; <em>P</em><0.004),
EF(中央値)(60%,31%), 血圧†(141/79mmHg, 128/76mmHg)。 †<em>P</em><0.001。
EFの評価法: 心エコー80.4%, シンチグラフィ16.4%, 血管造影3.2%。 |
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方法 |
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Embase,Medline,Medline In-progress,PubMedを検索。参考文献および学会抄録も検索し,抄録,未発表研究,英語以外の文献も対象に含めた。2006年末までに発表された文献についてのメタ解析結果は,既に報告*。今回は同様の手順で2008年末までの文献を検索し,個別の患者データをpooled解析した。
EF≧50%をHF-PEFと定義した。
* 17試験・24,501例:平均追跡47ヵ月で死亡は9,299例(38%)。HF-PEF例(7,688例)の死亡率32.1%,HF-REF例(16,813例)は40.6%でオッズ比0.51;95%信頼区間0.48-0.55(Euro J Heart Fail 2009;11:855-62. PubMed)。 |
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結果 |
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追跡期間はHF-PEF群1,024日,HF-REF群933日(中央値)。
[死亡]
全死亡のリスクはHF-PEF群がHF-REF群にくらべ有意に低かった(121[95%信頼区間117~126]/1,000人・年 vs 141[138~144]/1,000人・年;年齢/性別/心不全の原因/既往で調整後のハザード比0.68[0.64~0.71])。
薬物療法のRCT(3試験)を除外した解析(0.76[0.71~0.82]),RCTのみの解析(0.61[0.57~0.65])でも,結果は同様であった。
心血管死(14研究・26,725例)のリスクもHF-PEF群のほうが有意に低かった(0.55[0.49~0.61])。
[EFによる比較]
全死亡,心血管死のリスクは,EF≧60%にくらべ50~59%,40~49%で変わらなかったが,EF<40%ではEFの低下に伴い増加した。
[年齢と性別による比較]
HF-PEF群とHF-REF群の死亡リスクの差は,男女ともに高齢者ほど小さかった(HF-PEF群のハザード比は女性:≧75歳;0.79 vs <55歳;0.38,男性:0.74 vs 0.50;年齢/EF群の交互作用P<0.0001)。
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