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頸動脈内膜剥離術と頸動脈ステント留置後の脳卒中,死亡リスクと年齢の関係:4つのランダム化比較試験の統合解析
pooled analysis

70歳以上の症候性頸動脈狭窄患者では,頸動脈内膜剥離術(CEA)の頸動脈ステント留置術(CAS)に対する明らかな優越性が認められた。これは,CAS群でこの年齢層の周術期リスクが高かった一方,CEA群では年齢による差がなかったためであった。年齢は両群ともに長期リスクには影響を及ぼさなかった。
Howard G, et al.; Association between age and risk of stroke or death from carotid endarterectomy and carotid stenting: a meta-analysis of pooled patient data from four randomised trials. Lancet. 2016; 387: 1305-11. PubMed

コメント

このメタ解析により70歳以上の症候性頸動脈狭窄患者では頸動脈ステント留置術(CAS)より頸動脈内膜剥離術(CEA)のほうが有意に優れていることが明らかにされた。70歳以上では侵襲度の少ないCASのほうがCEAより一見有利なように思われるが,結果は逆であった。このメタ解析の結果は各国のガイドラインに間違いなく影響を与えるであろう。70歳以上の両群間差は周術期のリスクの差によりもたらされており,術後のリスクは両群間で差がなかった。したがって,70歳以上ではCASがCEAより周術期リスクが高いことを対象患者には十分に説明する必要がある。なぜならば,CASは内視鏡的な手技であり,手術療法であるCEAより侵襲度が低いので周術期のリスクはCEAより低いのではないかと考える患者が多いと思われるからである。CASがCEAより周術期リスクが高い理由としては,高齢者では動脈硬化が進行しているため大動脈弓を含めて長い距離を通過させなければいけないカテーテルが血管壁を損傷して脳卒中を誘発するリスクが高い可能性や,塞栓源となるプラークを根こそぎ取り除いてしまうCEAとくらべ,プラークを押しつぶして血管内腔を広げるCASは塞栓を誘発しやすい可能性が考えられる。これらのリスクはカテーテルやステントの改良,遠位への塞栓を補足するデバイスの併用で低減できる可能性があるが,最新のデバイスを用いたCASが本当に70歳以上でもCEAに劣らないかどうかは無作為化比較試験により証明する必要がある。(内山

目的 頸動脈ステント留置術(CAS)と頸動脈内膜剥離術(CEA)の有効性は年齢により異なることがいくつかのランダム化比較試験(RCT)で報告されている。Carotid Stenosis Trialists’ Collaboration(CSTC)*でも,70歳以上ではCASのほうがCEAより周術期の脳卒中・死亡リスクが高いという統合解析(RCT 3試験・3,433例)の結果を2010年に発表した(Lancet 2010; 376: 1062-73)。しかし,長期リスクへの年齢の影響や,両治療法のリスクの年齢別変化については詳細に論じられていなかった。
この3試験に新たにCREST試験のデータを加え,症候性患者におけるCAS,CEAの脳卒中・死亡リスクを年齢別(5歳ごと)に比較する統合解析を行った。
主要評価項目は,周術期(ランダム化後120日以内)の全脳卒中または死亡,および術後(120日後以降)の同側脳卒中。
*頸動脈狭窄の治療法を評価したRCT 5試験(EVA-3S,SPACE[Lancet. 2006;368:1239-47],ICSSCREST,ACST[Lancet. 2010; 376: 1074-84.])のTrialists’ Collaboration。
対象 4試験**・4,754例。CAS群とCEA群にランダム割付けされた症候性頸動脈狭窄患者。
** EVA-3S,SPACE,ICSS,CREST。
■患者背景:女性(<60歳群31%,60-64歳群28%,65-69歳群27%,70-74歳群30%,75-79歳群32%,≧80歳群34%),高血圧(66%,74%,76%,81%,78%,78%),糖尿病(22%,25%,28%,28%,26%,20%),脂質異常症(72%,72%,71%,69%,66%,59%),喫煙(55%,36%,27%,18%,11%,6%),CAD(21%,23%,29%,30%,32%,31%)。
方法 患者をベースライン年齢により5歳ごとに6群に層別し(<60歳群:CAS群407例,CEA群407例,60-64歳群:351例,341例,65-69歳群:462例,422例,70-74歳群:480例,436例,75-79歳群:403例,461例,≧80歳群:290例,294例),CAS群,CEA群のイベント発生率を各年齢群間で比較。さらに,CAS群 vs CEA群の年齢別の比較も行った。
結果 追跡期間中央値は2.7年で,脳卒中・死亡は433件発生。

[周術期リスク]
周術期の脳卒中・死亡リスクは,CAS群で加齢に伴い上昇した( <60歳群を対照としたハザード比[HR]:60-64歳群:1.79;95%信頼区間0.89-3.60,65-69歳群:2.16;1.13-4.13,70-74歳群:4.01;2.19-7.32,75-79歳群:3.94;2.14-7.28,≧80歳群:4.15;2.20-7.84;傾向P<0.0001)。
一方,CEA群では年齢による違いはみられなかった(<60歳群を対照とした各年齢群のHR:1.01,0.81,1.20,1.29,1.09;傾向P=0.34)。
CAS群 vs CEA群のリスクにも年齢による差が認められ,70歳までは有意な両群間差はみられなかったが(<60歳群:0.62;0.31-1.23,60-64歳群:1.07;0.56-2.01,65-69歳群:1.61;0.90-2.88),70歳以降はCAS群のリスクが有意に高かった(70-74歳群:2.09;1.32-3.32,75-79歳群:1.91;1.21-3.01,≧80歳群:2.43;1.35-4.38;傾向P<0.0001)。

[術後リスク]
120日以降の追跡例は4,289例,脳卒中は98件(2.3%)発生。
両群ともに加齢に伴う同側脳卒中・死亡リスクの上昇は認められなかった(<60歳群とくらべた各年齢群のHRの範囲:CAS群1.01-2.05;傾向P=0.09,CEA群:0.55-1.44;P=0.83)。
同様に,CAS群 vs CEA群にも年齢による差はみられなかった(年齢別HRの範囲:0.60-2.06,P=0.84)。

(収載年月2016.08)
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