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虚血性脳卒中発症から脳血管内血栓除去術施行までの時間と転帰(HERMES)
pooled analysis

大血管閉塞による急性虚血性脳卒中患者において,早期の血管内血栓除去術(+薬物治療)は薬物治療のみにくらべ3ヵ月後の障害度が低かった。有意な有効性が認められたのは発症から7.3時間後までの施行例であった。
Saver JL, et al.; HERMES collaborators. Time to treatment with endovascular thrombectomy and outcomes from ischemic stroke: a meta-analysis. JAMA. 2016; 316: 1279-88. PubMed

コメント

HERMESは,前方循環の主幹動脈閉塞に対する第二世代の血栓回収デバイスの有効性を検討した5件の無作為化比較試験の生データをメタ解析した質の高い研究であるが,血栓除去群ではt-PA単独治療群に比べて発症から7.3時間までは3か月後の転帰が有意に改善していたことが判明した。各国のガイドラインや合意声明では,機械的血栓回収療法は発症後6時間以内の前方循環の主幹動脈閉塞に推奨されているが,血栓回収デバイスは発症後8時間まで承認されており,発症後6時間から8時間まではグレーゾーンといえる状況であった。日本でも,機械的血栓回収療法は発症後8時間以内の急性期脳梗塞において,t-PAが適応外またはt-PAで血流再開が得られなかった患者を対象として承認されているが,日本脳卒中学会・日本脳神経外科学会・日本脳神経血管内治療学会の「経皮経管的脳血栓回収用機器の適正使用指針第2版」には,発症後6時間以内の前方循環の主幹動脈閉塞には有効であるとの科学的根拠が示されているが,発症後6時間以後や発症時刻不明の脳梗塞,後方循環の脳梗塞には有効性が確立されていないことに留意すべきであると述べられている。
本研究により,発症後7.3時間までの有効性が示され,治療可能時間枠はさらに1時間拡大されたといえる。しかしながら,現状では血管内治療専門医の絶対数がまだ不足しており,専門医が一人もいない地域が多く,このきわめて有効な最新治療の恩恵に浴することのできる患者がまだ限られているという課題を克服する必要がある。(内山

目的 米国,欧州,カナダの脳卒中ガイドラインや合意声明では発症後6時間以内の血管再開通治療を推奨しているが,米国FDAが血栓除去デバイスの使用を承認したのは発症から8時間後までであり,カナダでは特定の患者への12時間以内の施行も推奨に加えた。
急性虚血性脳卒中患者において,血管内血栓除去術が有効な発症後の時間枠を明らかにし,どの程度の治療の遅れが機能的転帰,死亡,症候性頭蓋内出血と関係するかを検討するため,ランダム化比較試験の患者データの統合解析を実施した。
有効性の主要評価項目は,3ヵ月後の障害度(modified Rankin Scale[mRS;範囲0-6,低値ほど軽度]のシフト解析により評価)。
安全性の評価項目は,90日後の死亡,36時間以内の症候性頭蓋内出血,画像検査での重大な脳実質内血腫。
対象 1,287例・5試験(血管内血栓除去術[+薬物治療]群634例,薬物治療群653例)。急性虚血性脳卒中に対する主な血管内治療としてステント型血栓回収デバイス・その他の第2世代デバイスを検討した第III相ランダム化比較試験で,2016年7月1日までに主結果が論文発表されたもの。tPA静注適応患者での試験。
■患者背景:平均年齢(血管内血栓除去術群66.3歳,薬物治療群66.7歳),女性(47.9%,46.2%),NIHSSスコア(両群とも16.8),施設到着(直接搬送:69.8%,66%;転送:30.2%,34%),治療前tPA静注(83.0%,87.1%),閉塞部位(内頸動脈:21.3%,22.5%;中大脳動脈M1:70.5%,70.6%),ASPECTS(Alberta Stroke Program Early Computed Tomography)スコア(9-10:52.4%,56.1%,7-8:34.2%,29.2%,5-6:9.4%,9.6%)。
発症からランダム化までの時間(中央値)(両群とも196分)。
方法 PubMedを検索。
時間と転帰の関係を2つのアプローチで解析:1) 治療群別の時間と転帰の関係,2) 血管内治療群の再灌流(modified Thrombolysis in Cerebral Infarction[mTICI]スコア2b・3)達成例における時間と転帰の関係。比較した時間枠は,発症からランダム化・動脈穿刺まで(全例),救急治療室(ED)到着からランダム化・動脈穿刺まで(直接搬送例のみ,転送例は除外)。2)では発症から再灌流までの時間を主解析とした。
結果 全時間枠の転帰データ取得は99.2%。

[治療群別の時間と転帰の関係]
3ヵ月後のmRSスコアは,血管内血栓除去術群2.9 vs 薬物治療群3.6。血栓除去術群での3ヵ月後のスコア改善の共通オッズ比(cOR)は2.49(95%信頼区間1.76-5.53),絶対リスク差(ARD)は38.1%(P<0.001)。
血栓除去術群では発症から動脈穿刺までの時間が遅いほど障害度が高かったが,薬物治療群では時間による違いはみられなかった。血栓除去術群のmRSスコア改善のcORは,3時間2.79(1.96-3.98)・ARD 39.2%,6時間1.98(1.30-3.00)・30.2%,8時間1.57(0.86-2.88)・15.7%。機能的自立(mRS 0-2)も同様の結果であった(オッズ比[OR]2.83・ARD 23.9%,2.32・18.1%,2.03・14.3%)。血栓除去術群で有意な有効性が認められたのは,7時間18分(7.3時間)までであった。
発症からED到着までの時間は結果に影響を及ぼさなかったが,ED到着からランダム化・動脈穿刺・再灌流までの時間が長くなるほど血栓除去術群の有効性は低下した。
良好転帰(mRS 0-1),症候性頭蓋内出血,重大な脳実質内血腫については時間の影響はみられなかった。

[再灌流までの時間と転帰の関係]
血栓除去術群での動脈穿刺施行は607例(95.7%;発症から穿刺までの時間の中央値238分),血栓除去施行は563例(88.8%),うちmTICIスコア取得例は549例で,再灌流達成(mTICI 2b・3)は390/549例(71.0%;再灌流まで301分)。
発症から再灌流までの時間は3ヵ月後の障害度と関連(1時間遅れるごとのmRS改善のcOR 0.84;0.76-0.93,ARD -6.7%;9分遅れるごとに治療患者100例のうち1例のmRSスコアが≧1悪化)。3ヵ月後の機能的自立も時間の遅れに伴い低下した(再灌流まで180分:64.1%,480分:46.1%;1時間遅れるごとのcOR 0.81;0.71-0.92,-5.2%)。
ED到着から再灌流までの時間も障害度と関連(4分遅れるごとに治療患者100例のうち1例の障害度が悪化)。また,3ヵ月後の機能的自立例はED到着から再灌流まで,脳画像診断から再灌流までの時間が早いほど多かった。
死亡,症候性頭蓋内出血,重大な脳実質内血腫は再灌流までの時間の遅れとは関連しなかった。

(収載年月2016.12)
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