心臓植込み電気デバイス管理を取り巻く環境とCOVID-19
わが国における心臓植込み電気デバイス(cardiac implantable electronic devices:CIEDs)の移植件数は年々増加している。超高齢社会, 心血管疾患の増加, 心不全パンデミックともいわれる高齢者人口増加に伴う心不全症例の増加などが背景にあり, CIEDs移植症例の増加は今後も続くと予想される。
CIEDsを移植された患者には, 定期的な外来受診が必要である。増え続ける患者によって, 近年デバイス外来は混雑し, 長い待ち時間・診療時間が常態化している。
折しも2019年末より新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が急速にまん延し, 集団感染防止対策として, “不要不急”の外出や “3密(密閉・密集・密接)”を避けることが提唱された。従来の外来中心のデバイス管理ではこの “3密”に触れる可能性があり, 医療機関への受診が “不要不急”というわけではないだろうが, 減らす工夫はすべきと考えられた。
このような状況にあって, 目下, 当院ではウィズコロナ時代としての特別な対応をすることなく, つまり患者さんを“密”な状態で長時間待たせるよりむしろ医療者が患者さんの到着を待つことのほうが多いような状態で診療を継続できている。
それを可能にしたのは, 当院が数年前から取り組んできたデバイス外来の混雑・患者の待ち時間解消のための2つの対策, ①デバイス診療におけるwebアプリケーションを介した病診連携と, ②遠隔モニタリングシステムの活用であった。
本稿では, 図らずもCOVID-19対策としても効を奏することとなった当院のこれら2つの対策を, “密”をつくらない医療提供体制づくりの一例として紹介したい。
“密”をつくらない医療提供体制のための対策
1.Webアプリケーションを介した病診連携
2016年に筆者が当院に赴任してまず着手したのは, デバイス患者の管理ツールとしてMedtronic社のCareLink Express™を活用することであった。
デバイス外来の混雑緩和のためにCareLink Express™を活用して近隣の循環器専門クリニック/診療所のかかりつけ医(以下, かかりつけ医)との病診連携を拡充し, 当院に通院するデバイス患者の絶対数を減らしたいと考えた。
このCareLink Express™は, 専用送信機を用いて, webアプリケーションサーバ(CareLink Network)にMedtronic社製のCIEDsを植え込んでいる患者の心電図等のデータを伝送するためのアプリケーションである*。
病診連携については, 開始にあたって, かかりつけ医を対象として説明会を開催し, CareLink Express™の概要とそれを用いた病診連携についての説明を行った。そして, そのうえでCareLink Express™を導入してもらい, 平常時の患者のデバイス管理はかかりつけ医に行ってもらう逆紹介を開始した。
患者には逆紹介先であるかかりつけ医の外来に設置してある機器の読み込み専用アンテナをデバイス植え込み部位に当て, 送信ボタンを押してもらう。この簡単な操作だけで従来のプログラマーと同等のデータが抽出され, 専用サーバへ送信される。取得したデータは数分後にはFAXもしくはweb上で確認することができる。伝送されたデータはかかりつけ医だけでなく当院とも共有できるため, 確認や設定変更が必要な場合に, スムーズな連携が可能となる。問題が生じた場合は当院で対応するため, デバイスフォローに慣れていないかかりつけ医でも安心して利用できるのではないかと考えた。
従来のデバイス外来だと, 患者さんのデバイス情報のチェックにプログラマー操作の専門知識を持った医療者やデバイスメーカーの担当者の立ち会いが必要で, 日程調整などを行う手間がかかるため融通の利くシステムとはいえなかった。その点, このCareLink Express™は, 看護師やクラークなど, プログラムに関する専門知識のない院内の医療者誰もが操作可能で, メーカー担当者の立ち会いも不要, 患者さんが受診するタイミングでデバイス情報のチェックを行える。
一方で, この試みに対し, 不安を抱く患者さんも少なからずいた。慣れ親しんだ当院での受診から近医での受診に変更することになるので当然だが, 患者さんには急性期対応が必要な場合には当院が責任をもって対応することを十分に説明し, 理解いただけた。
同時に, 患者管理を行う側のかかりつけ医に対しても過度な負担がかからないよう, 共有している患者データのアラート通知を当院で常時チェックするなどの配慮をした。
2.遠隔モニタリングの活用で外来患者をフォロー
さて, webアプリケーションを活用した病診連携によって当院のペースメーカー症例を多くのかかりつけ医へ逆紹介することができたものの, 逆紹介先のない症例や植込み型除細動器(ICD)や心臓再同期療法(CRT)の症例は当院外来でフォローを継続することになる。そのため, 必然的に当院外来のシステム変更も行わざるをえなくなり, 遠隔モニタリングシステムの導入を決定した。
デバイス診療における外来と遠隔モニタリングについては, 日本循環器学会の「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)」においてその適応が示されており1), 先行研究においても, 遠隔モニタリングの安全性は従来の外来デバイス管理と同等, デバイス・リードの不具合や心房細動を含めた不整脈の発生については遠隔モニタリングでより早期に診断できることが報告されている。
当院では, 可能な症例に対しては, メーカーを問わない形での遠隔モニタリング導入を決め, 患者の自宅にCIEDsからの情報を読み取るモニタ(データ送信機)を設置してもらい, サーバに保存された患者データを随時当院でチェックできるようにした。
高齢の患者もいるため, 患者宅に設置するモニタの操作に難渋することが懸念されたが, たとえばMedtronic社の最新機種であれば, 電源をつなげておけばデータは自動送信されるため, 高齢患者に負担をかけることなくモニタリングすることができる。
外来への遠隔モニタリングシステム導入に伴い, 外来の受診間隔をペースメーカー症例では6カ月→12カ月ごと, ICD症例は3カ月→6カ月ごとへと延長した。ICD症例に関しては, 2021年度からは12カ月ごとへとさらに延長した。
また同時に, 遠隔モニタリングにより入手した直近のデバイスデータをチェックし, 診療前にあらかじめ確認に必要な項目をしぼりこむことで1人あたりの外来所要時間の短縮も図った。
さらに, 先述のCareLink Express™を活用した病診連携を通じて, デバイス診療に慣れてきた複数のかかりつけ医での遠隔モニタリングシステムの導入も進み, 逆紹介した患者のアラート通知を当院が常時チェックすることにより, デバイス患者を地域で支えていく体制が構築された。このように, 複数でデバイス患者を診ていくことで, より早期に必要な対応ができるのではないかと考えている(図1)。
得られた効果
当院での遠隔によるデバイス管理導入後, 数年が経過したところで, われわれは病診連携を開始した2016年から3年間の外来所要時間を調査した。
2016年は病診連携を開始したばかりの年で患者数も多く, 外来1回当たりの平均所要時間は212分, 長いときで4時間以上かかっていたが, 2017年になると平均140分, 2018年は平均113分と, 年数を重ねるごとに所要時間の短縮が得られていた。外来時における患者・医療者双方の負担が軽減され, 冒頭で述べたように外来の混雑も改善することができている。
むすびに
新型コロナウイルス感染症の収束が見えない現在, 密を作らない医療体制の構築は重要である。デバイス診療において, 遠隔モニタリングはそのための強力なツールになると考えられる。
しかし, 課題もある。ただ遠隔モニタリングシステムを導入するだけでは, 膨大な量のデータ管理とカルテ記載など, 医療者の負担が増える可能性がある。また, 外来においては患者の絶対数が減っているわけではないので, 混雑解消への効果は限定的と考えられ, 外来受診を先延ばししたところで根本的な解決にはならないのではないか――。
その一方で, デバイス診療の病診連携を図ることで, これまで一施設に集中していた患者を分散させ, さらに遠隔モニタリングを用いてデバイス外来管理の効率化を進めていたことが, 幸いにもウィズコロナ時代における密を作らない外来診療に適していたと考えている。
当院で行っているシステムがハイボリュームセンターのような施設でも同様に行えるかどうかは不明だが, 1つの参考になることができれば幸いである。
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* CareLink Express™は, 医療機関に設置した専用機器を用いて, 患者に植え込まれているMedtronic社製CIEDsが保存している様々なデータを取得しアプリケーションサーバー(CareLink Network)へ送信するシステム。医療機関はデータをFaxでのレポートもしくはwebで確認できる。
参考文献
- 日本循環器学会・日本不整脈心電学会. 不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版).
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/07/JCS2018_kurita_nogami.pdf
(最終閲覧:2021年6月)