原因不明の失神や潜因性脳梗塞の診断治療に非常に有用
植込み型心臓モニタ(insertable cardiac monitor:ICM)は,原因不明の失神症例や潜因性脳梗塞の診断治療において非常にパワフルな心臓植込みデバイスである。特に,予想される失神発作の頻度がまれ(数カ月に1回程度)な症例においては,他の検査に取って代わることができない診断能を発揮するデバイスである。
最新のガイドラインにおいても, ICMの推奨クラスIの適応は,「心原性を疑う高リスク所見はないが,反射性失神あるいは起立性低血圧などの非心原性 失神であることが否定的で,発作が不定期あるいはまれな,原因不明の再発性失神患者の初期段階での評価」,「心原性を疑う高リスク所見を有するが,包括的な評価でも失神原因を特定できない,あるいは特定の治療法を決定できなかった場合」,「潜因性脳梗塞と診断された患者において,ホルター心電図を含む長時間心電図検査でも原因が同定されず,原因として心房細動の検出を目的とする場合」とされている1)。
現在のICMはシステムとしてもかなり成熟しており,
- ・3~5年間の長期モニタリング
- ・遠隔モニタリングにより早期のイベント把握が可能
- ・症候性イベント発生時は数分さかのぼった心電図記録も可能*
- ・MRI検査への対応**
植え込みは、きわめて簡便かつ短時間で可能
また,現行のICMは,そのサイズも十分に小さくなっており,植え込み手技はきわめて簡便かつ短時間で施行可能である(図2)。このため,植え込み手技の習得も非常に容易で,合併症もほとんど生じない。したがって,循環器専門医以外のドクターでも植え込みを行うことは可能である。
デバイス植え込みで懸念される感染の問題に関しても,従来の心臓植込みデバイスに比して,血流中にリードを留置する必要がなく,抜去も容易であり,感染のリスクはきわめて小さいと考えられ,実際に当院でもICMの感染症例は経験していない。
したがって,外来処置室などでの日帰りでの植え込みが十分安全に施行可能であり,一昨年来のCOVID-19感染の蔓延した状況下においても,患者を病棟に入院させることなく日帰りで植え込みを行うことで感染対策を取りながらの施術を行うことができ,病院,患者双方にメリットがあると考える。
ただし,植え込み中および植え込み直後に失神をきたすことがあるため,植え込み術はモニター監視下で行い,術後も少なくとも1時間程度の経過観察を行ったあとの帰宅が望ましいと思われる。
早期の診断・治療介入が求められる失神診療
昨今の高齢化に伴って,高齢者の運転中の意識消失事例が報道されることも多くなったと感じる(図3)。失神診療にあたっては,活動性の高い症例では,より早期の診断そして治療介入が求められるようになってきており,この点でもICMの積極的活用が望まれるところである。
ICMの適応検討においては,特に高齢者の失神発作の場合,
- ① 発作に伴う外傷や骨折などのリスク
- ② これに関連する日常活動動作(ADL)の低下や長期リハビリの可能性
- ③ 運転自粛の必要性からくる社会生活上の障害
当院では,失神患者や潜因性脳梗塞患者に対しては,救急部門,神経内科部門とも連携しつつ,ICMの積極的な活用を図ってきた。
これまで原因不明の失神患者に対してICM植え込みを行った患者において,平均22カ月のフォローアップ期間に23%(22/94例中)の症例で診断に至っており,早期の治療/介入に非常に有用であった(図4)。また,治療介入を受けた全例でその後の失神発作は消失しており,失神発作前の元通りの社会生活に復帰することが可能となっており,その恩恵は多大である。
参考文献
- 日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン. 不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版).
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/07/JCS2018_kurita_nogami.pdf (2021年12月閲覧)- 国土交通省 自動車総合安全ホームページ
https://www.mlit.go.jp/common/001210258.pdf (2021年12月閲覧)