2019年に中国の武漢市で始まったCOVID-19の流行は瞬く間に世界に広がり,医療現場のみならず経済,教育などに多大な影響を与え続けている。
 COVID-19患者治療のための人員,医療資材や病床を確保するため,通常医療の制限もたびたび要請されてきた。その収束が見えない現在,緊急対応の多い循環器診療において,安全かつ確実に必要な治療が求められる。
 COVID-19感染拡大下でのペースメーカ植え込み術とその管理に関して述べたいと思う。

COVID-19感染拡大下でのペースメーカ植え込み

感染拡大下では,緊急症例と非緊急症例のトリアージが非常に重要である。ペースメーカ依存患者でのリード不全に対するリードrevision,ERT/EOL(選択的交換時期/寿命末期)でのバッテリー交換,有症候性の完全房室ブロック,Mobitz II度房室ブロック,高度房室ブロック,long pauseを伴う症状の強い洞機能不全などが緊急を要する1)

1) 植え込みデバイスの選択

病態に合わせたペーシングモードの選択が必要なことはもちろんであるが,COVID-19感染拡大下では可能な限りの感染予防対策を行う必要がある。なかでも,短い手技時間,入院期間は重要なポイントである。
 経大腿静脈で留置するリードレスペースメーカは,飛沫源である患者の頭部から術者が遠く,植え込み時間・入院期間も短く,経静脈リードと比較して合併症が6割低いため2),流行下での植え込みとして理想的なデバイスと考えられる3)。しかし,リードレスペースメーカはMicra™ VRとMicra™ AVのみであるため(令和4年3月現在),心房ペーシングを要する病態には必ずしも望ましくない4)

2) 植え込み時の感染予防

関連のない症状,無症状の患者であってもCOVID-19に感染している可能性があるため,当院ではすべての緊急入院,予定入院患者に対して抗原検査またはPCR検査を行っているが,緊急症例では胸部CTにより肺炎の有無を評価している。ただし,肺炎像がなくとも陽性患者であることは無論否定できない。酸素投与を要する場合には,経鼻カニューレまたは酸素マスクにサージカルマスクを併用する。

◆ペースメーカ植え込み時の感染予防のポイント◆

  • 医療者: 患者がサージカルマスクを正しく着用している場合,医療者はサージカルマスクのみでフェイスシールドは不要だが,正しく着用できない,またはマスクを外す可能性がある場合はフェイスシールドを着用する。非清潔介護者(看護師,臨床工学技士など)も同様である。カテ室に入る人員は可能な限り少なくする。
  • 患者: 病室からの移動やカテ室内では,常にサージカルマスクを装着する。酸素投与が必要な場合は,経鼻カニューレまたは酸素マスクにサージカルマスクを併用する。
  • 手術時間の短縮
  • 入院期間の短縮
  • 術後(植え込み後): 経静脈ペースメーカでは,吸収糸を用いると外来での抜糸が不要になる。少しでも来院の頻度を軽減するために積極的に遠隔モニタリングを導入する。

遠隔モニタリングは,導入時に詳細を説明するため時間を要するが,導入後には患者の自宅からデバイスの情報や不整脈などに対するモニタリングが可能となるため,来院回数を減らしながらも安全に管理することが可能である。そのため,COVID-19流行下で導入頻度は増加している。

3) COVID-19罹患患者に対する植え込み

欧州心臓病学会(ESC)の推奨では,一時ペースメーカを挿入下にイソプロテレノール,アトロピンなどの薬物療法を行い,COVID-19罹患患者の感染回復後の植え込みを薦めている5)のに対し,イタリアのposition paperでは早期の永久ペースメーカ植え込みを薦めている6)
 早期の植え込みはCOVID-19専門病院への早期の転院につながるため,医療スタッフおよび他の患者への感染を未然に防ぐことにつながる。また,患者の徐脈による血行動態への影響を回避できることにもなる。一時ペースメーカは感染リスクを2.5倍増加させ,気胸,心筋穿孔などのリスクを増加させることも永久ペースメーカの早期植え込みが薦められる一因であろう。

今後のペースメーカに思うこと

リードレスペースメーカの開発は,徐脈治療におけるエポックメイキングであった。小型で電池寿命も長く,MRI撮影が可能と,経静脈ペースメーカの機能と比して遜色がない。一定期間の上肢の運動制限もなく,皮下ポケットもないため,患者が気にせずに過ごせること,前述のように経静脈ペースメーカの主要合併症を6割減らしたことは患者にとって大きなメリットである。また,血流内に存在する表面積が経静脈リードに比較して非常に小さいこと (546 mm² vs. ≈3500 mm²),比較的早期に内皮化されること,システム全体が血液流速の速い心腔内にあることにより,感染リスクが低くなると考えられている。
 COVID-19流行下にこのシステムが日本でも使用可能であったことは心から嬉しく思う。今後はさらなるモード,つまり心房ペーシングが可能な心房心室順次ペーシング(DDD)ならびに左室心内膜側からのペーシングによる心臓再同期療法,そしてバッテリーが充電式になること,さらにより小型で小児にも植え込みが可能になることなど,夢と希望は尽きない。

参考文献
  1. Lakkireddy DR, et al. Guidance for cardiac electrophysiology during the COVID-19 pandemic from the Heart Rhythm Society COVID-19 Task Force; Electrophysiology Section of the American College of Cardiology; and the Electrocardiography and Arrhythmias Committee of the Council on Clinical Cardiology, American Heart Association. Heart Rhythm. 2020; 17: e233-e241. PMID: 32247013
  2. Roberts PR, et al. A leadless pacemaker in the real-world setting: The Micra Transcatheter Pacing System Post-Approval Registry. Heart Rhythm. 2017; 14: 1375-1379. PMID: 28502871
  3. Kazmi M, et al. Micra™ Leadless Intracardiac Pacemaker Implantation: A Safer Option During the Coronavirus Disease 2019 Pandemic. J Innov Card Rhythm Manag. 2021; 12: 4368-4370. PMID: 33520352
  4. Nogami A, et al. Japanese Circulation Society / the Japanese Heart Rhythm Society Joint Working Group. JCS/JHRS 2021 Guideline Focused Update on Non-Pharmacotherapy of Cardiac Arrhythmias. J Arrhythmia. 2022 (in press).
  5. 2020 ESC Guidance for the diagnosis and management of CV disease during the COVID-19 pandemic,”
    ESC-COVID-19-Guidance
  6. Gulizia MM, et al. “ANMCO position paper: guidance for the management of suspected or confirmed COVID-19 patients requiring urgent electro- physiological procedures,”[Article in Italian]. G Ital Cardiol (ROME). 2020; 21: 336-340. PMID: 32310918