はじめに
COVID-19の感染拡大のため,生活のさまざまな場面が制限された。医療機関もCOVID-19の対応に奔走するなか,多数の医療機関においてクラスターが発生した。
多くの医療機関はCOVID-19感染患者に対する病床確保や院内クラスター予防のため,緊急性の低い入院の制限を行った。失神診療も例外ではなく,COVID-19感染拡大により当院での失神診療がどのように変化したか,今後の問題点や展望について意見を述べたい。
COVID-19感染拡大による患者側の変化
a. 外来診療
当院の失神の診療で顕著に認められたのが,遠方からの受診患者の減少であった。COVID-19感染拡大以前は,ありがたいことに,関東圏以外の地域からも少なからず外来の受診があった。しかし,感染拡大中はいわゆる県をまたぐ移動となってしまうため,ほとんど受診がなくなった。さらに地域の再診患者も,内服処方のない高齢者を中心に受診を控える傾向であった。
b. 入院診療
やはり感染の危険性を危惧する高齢者を中心に入院に同意しない患者や入院のキャンセルが多数みられた。また,現在*も同じ状況ではあるが,入院前にCOVID-19のPCR検査で陰性であること確認している関係で,入院前日までに一度受診してもらう必要がある。失神の患者は就労しているケースが多く,日程の調整がつきにくいため,後述のように入院の延期や入院で行っていた検査を外来で行えるように変更している。
* 2021年12月現在
COVID-19感染拡大による医療者側の変化と今後の展望・問題
a. 外来診療
当院では,再診患者のうち希望者には遠隔診療(電話再診)を施行,内服の継続が必要な患者に対しては遠隔での処方を行っている。しかし,保険制度の問題を除くとして,初診患者に対しては,問診である程度鑑別をつけることも可能であるとはいえ,COVID-19への感染可能性を考慮すると,現状ではリスク評価ために必要な心電図などの検査の実施がむずかしい。ある程度の検査結果がそろっているセカンドオピニオン的外来は可能であるが,まったくの初診患者においては他の医療機関との連携などの工夫が必要となる。
b. 入院診療
ご存じのとおり,失神は診断までに多くの検査が必要である。大部分の検査は外来で施行できるものの,侵襲的な検査を含む一部の検査では入院が必要となる。失神診療を行ううえでCOVID-19感染拡大以前は入院して行っていた検査のなかで,外来での実施に切り替えた検査や今後外来での実施が可能な検査について説明する。
反射性(神経調節性)失神を誘発し,失神の原因を確認していく検査である。当院では,全失神患者の2割程度に施行している。発作時の意識消失時間が長い場合や回復後の気分不快が長時間続く患者や高齢患者では検査後の静養場所確保の必要を考え,入院での検査を推奨していた。しかしながら,COVID-19への感染を心配する患者や入院前のPCR検査の日程が立たない患者が増加したため,検査後の気分不快が長く続く場合には外来処置室等の静養場所を確保して行っている。症状がひどい場合には入院してもらうことも想定していたが,現時点では入院を要した例はない。
◆モニタリング目的での入院
COVID-19感染拡大以前は,失神回数が多く,ハイリスク失神が疑われる患者には早期に入院してもらい,心電図モニタを施行しながら諸検査を施行しており,1週間程度の入院で不整脈が見つかることがしばしば認められた。しかし,前述と同様の理由により入院がむずかしい患者では,1週間のホルター心電図を軸とした外来での検査を行っている。
植込み型心臓モニタにおける遠隔モニタリングシステムの活用と課題について
失神の診療を行ううえで欠かせない機器が長期心電図モニタであり,失神の回数が1カ月に1回以下の患者では危険性が高くない場合でも適応になるのが植込み型心臓モニタ(insertable cardiac monitor:ICM)である(図1)。1 cm×5 cm程度の非常に小さな機器(心電図)を通常は左前胸部に植え込み,心電図をモニタリングしていく。電池寿命は製品により違いがあるが,2~5.5年である。
この植込み型心臓モニタで発作時の心電図を確認することで,不整脈の診断・除外や反射性(神経調節性)失神の診断が可能となる。この機器は心房細動を含む不整脈の検出を正確に行えることから塞栓源不明脳塞栓症(embolic stroke of undetermined source:ESUS)に対しても使用が可能となっている。
遠隔モニタリングにおいて長時間の洞停止が確認された例も多く,1年で50%,3年で80%程度の診断が可能といわれている。遠隔モニタリングの画面を図2~4に示す。ICMと遠隔モニタリングは侵襲的な処置を含むものの,海外の報告では比較的患者の受け入れは良好となっている1)。当院では設備の関係もあり,移植手術および摘出手術を入院で行っているが,手術自体はごく短時間であり,透視も不要なため外来でも施行可能である。通常,植え込み後は,遠隔モニタリングで機器が検出したデータの確認をするとともに定期的な外来受診(当院では6カ月に1回)でペースメーカ同様にプログラマーを使用し,機器の管理を行っている。しかしながら,COVID-19感染拡大に伴う緊急事態宣言下では県をまたぐ長距離移動の制限により遠方の患者が受診しづらく,ICMに対してもペースメーカなどのデバイスと同様に遠隔モニタリングシステムの活用により受診回数を減らすべく対応した。
しかし,ここで問題となるのは,診療報酬である。ペースメーカ等のデバイスに関しては遠隔モニタリングに対し診療報酬が得られるが,ICMの遠隔モニタリングについては診療報酬が発生せず,医療機関側の“ボランティア”となってしまう。患者と直接やり取りを行い,遠隔診療として診療報酬を得る方法もあるが,確認のたびに電話など他のデバイスは違った診療体制が必要となるなどの課題が残されている。今後は,ICMについても遠隔モニタリングに対する診療報酬が得られることが望まれる。
最後に,今回のCOVID-19の感染拡大をきっかけに浮き彫りになった失神の遠隔診療の課題について,以下にまとめた。
失神診療について
遠隔診療は可能であるものの,検査等の実施について他の医療機関との連携が必要である。
検査・処置について
外来でも施行可能であるが,ヘッドアップチルト試験のように検査後のバックアップ体制が必要となってくるものもある。
植込み型心臓モニタの遠隔モニタリングについて
実施可能だが,現在の保険医療制度上,診療報酬の課題がある。
参考文献
- Furukawa T, et al. Effectiveness of remote monitoring in the management of syncope and palpitations. Europace 2011; 13:431–7. PMID: 21242154