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特別企画
循環器デバイス治療の いま
第7回 脳血管内治療医からみた 潜因性脳梗塞患者へのICM施行の利点とは
福岡県済生会福岡総合病院 脳神経内科 部長 園田 和隆 先生
脳卒中は本邦における死亡原因の第4位である。過去に比して10万人あたりの死亡率は低下している一方で, いわゆる「寝たきり」の状態となる要介護5の原因としては第1位となっていることから, 医療経済および介助者への負担が大きな疾患である 1。
脳卒中は脳出血, 脳梗塞, くも膜下出血に大別されるが, 特に脳梗塞は近年の生活の欧米化などの影響もあり, 現在, 脳卒中の中でもっとも割合が高く, 上記のような問題の中核をなしている。
ESUSと発作性心房細動
脳梗塞に対する急性期加療は, 経静脈的血栓溶解薬(tPA等)の投与や近年の血管内治療の発展により, 一部の症例ではこれまでと異なり, 発症後に良好な転帰への改善が期待できるようになった。
脳梗塞の二次予防については, 心原性脳梗塞, ラクナ梗塞やアテローム血栓性脳梗塞などの動脈硬化性変化を主体とした脳梗塞, それ以外の脳梗塞に分類したうえで, 心原性脳梗塞には抗凝固薬, それ以外の病型には抗血小板薬が用いられる。
これらの分類を行うため, 脳卒中医は種々の検査を施行するが, 近年, ラクナ梗塞, アテローム血栓性脳梗塞, 心原性脳梗塞以外の脳梗塞のなかの潜因性脳塞栓症(ESUS;embolic stroke of undetermined source)といわれる一群が注目されている。ESUSは, MRI所見からは局所の動脈硬化でなく何らかの原因で栓子が血流に乗って移動し,最終的に脳梗塞を起こしたことが予測されるが, その原因がはっきりしない脳梗塞を指す。
このESUSの原因でもっとも多いといわれるものが発作性心房細動である。しかし発作性心房細動はホルター心電図や入院期間中のモニターによる心電図監視など, 通常の急性期脳卒中診療の中で行われる検索では発見できないことも多く, CRYSTAL-AF試験, EMBRACE試験の結果からは, 脳梗塞罹患後の心電図観察期間が長いほど原因となる心房細動の検出率が上昇することが示されている。直接阻害型経口抗凝固薬(DOAC)が使用できる現状では, 心房細動の同定はより有効な二次予防戦略の構築につながる。特に前述のCRYSTAL-AF試験では, Medtronic社の植込み型心電計(implantable cardiac monitor : ICM)を用いてESUS罹患後に長期の経過観察をすることで, 有意に高率に発作性心房細動を同定することに成功している。
実臨床でも証明された, ESUS検出におけるICMの有用性
これらの結果を受けて, 本邦でも2016年にESUSに対する心房細動の検出目的にICMの使用が保険診療で承認され, われわれの施設を含む多施設でその初期経験の検証を行った。検出率については, 岩田らの報告で観察期間中央値221.5日で26.2%に心房細動が検出され, これは前述のCRYSTAL-AF試験に比しても高い数値となっている 2。この要因として, 一つには脳卒中医が十分な除外診断を行ったうえで植え込み患者を選定したことで, 発作性心房細動を有する患者の割合が多くなったことが考えられる。もう一つには, 脳卒中医が植え込みを行うことで, 脳卒中発症から植え込みまでの期間が短く, より連続した観察が得られたことが考えられる。また, 主に脳血管内治療医が診療にあたる主幹動脈閉塞患者を対象とした場合, さらに検出率が上昇することを土井尻らが報告した 3。
われわれの単施設では, 2020年12月の時点までに計80例に植え込みを施行した。植え込み対象患者の平均年齢は67歳で, うち73%が男性, これまで25%の患者に心房細動を検出し, 検出までの期間の中央値は102日と, 前述の結果とおおむね同様であった。
ICM植込み後の管理の要は, 脳卒中医と循環器内科医のコミュニケーション
このように, 十分な脳卒中病型評価を行い, 急性期診療から連続的にICM移植につなげることにより, よりよい患者選択とシームレスな観察ができる可能性がある。この点では, 脳卒中医によるICM移植は患者利益にかなう可能性がある。
しかし一方で, 脳卒中医のみでのICM管理にも限界がある。特に機械判断による心房細動判定には偽陽性が含まれ, 通常の心電図と異なりp波が確認できないことも多く, 判断に苦慮することが多い。また, 心房細動以外の不整脈が同定されることもある。さらに心房細動が同定された場合, カテーテルアブレーション等の追加治療の適応を検討する必要もあり, ICMの管理運用については循環器内科医と十分なコミュニケーションを取りながら行うことが望ましい。
われわれの施設では, 臨床工学技士が植え込み時から機器管理を含めて積極的に介入することで, 脳卒中医は植え込み患者の選定と植え込み, および外来に専念できる体制を構築している。また, 不整脈検知時は, その情報が臨床工学技士を通して脳卒中医、循環器内科医で共有できるため, 遅滞なく適切な判断や加療が可能となっている。
ICMは, 脳卒中医および循環器内科医の適切な連携の中で運用されることで, これまでその実態がはっきりしなかったESUSに対する有効な対応手段となりえる。
また, 学術的見地からは, ICMにより継続的に心電図情報を得ることができることから, 脳梗塞の原因となる心房細動の臨床的特徴の実態解明につながる有用なデバイスであると考えられる。
参考文献
- 厚生労働省. 2019(令和元)年 国民生活基礎調査.
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/dl/05.pdf
- Iwata T, et al. High Detection Rate of Atrial Fibrillation With Insertable Cardiac Monitor Implantation in Patients With Cryptogenic Stroke Diagnosed by Magnetic Resonance Imaging. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2019 Sep;28(9):2569-2573. PubMed
- Doijiri R, et al. Paroxysmal Atrial Fibrillation in Cryptogenic Stroke Patients With Major-Vessel Occlusion. Front Neurol. 2020 Nov 12; 11: 580572. PubMed
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