1977年のAndreas Gruentzigによるfirst in man procedure[1]以来,PCIは間もなく30年の節目を迎える。その大半はバルーン治療(PTCA)の限界に対するmechanical
solutionの展開に費やされきた。さまざまな性状のアテローマが混在する病変を圧排・伸展するだけのPTCAでは拡張不良や大きな冠動脈解離をきたすことも稀ではない。その結果,適応病変が一枝疾患あるいは平易な多枝疾患に限定されていたにも関わらず,初期の成功率は65〜85%に留まった。さらに3〜8%で急性冠閉塞を合併,その約10%がQ波梗塞となり,20〜30%に緊急バイパス手術が必要で,院内死亡率は全症例の1〜2%に達していた。また不十分拡張に加え,elastic
recoil・negative remodeling・内膜平滑筋増殖による再狭窄率は35〜58%と報告された。
1990年代になり,急性効果の改善と再狭窄率の抑制への期待を担ってDCAやBMSなどのニュー・デバイスが登場することになる。
1. bigger is better ?
「(DCA・BMSの)手技に関わらず,残存狭窄の減少は合併症を増加させずに再狭窄を減じる効果がある」という“bigger is better hypothesis”がBaim,Kuntzらによって提唱され[2],PCIはより積極的(aggressive)に行う時代に突入した。
DCAでは,PTCAに対する優位性を示せなかったCAVEAT[3],CCAT[4]が最初のトライアルである。IVUSが導入される以前ということもあり,その特性を生かせず不十分切除が最大の要因と考えられた。(IVUS-guided)
aggressive DCAを行ったBOAT[5],ABACAS[6]では,再狭窄率・再治療率が各々31.4%・17.1%(TVR),19.6%・15.2%(TLR)と“BMS並み”の成績であったが,これを超えることはできなかった。また煩雑で熟練を要するため手技の標準化が難しく,適応病変に制限があるなどの問題点が多く,施行施設・対象病変ともにかなり限定された。
一方,大きな冠動脈解離からのbail-out(離脱)を目的に登場したBMSにより,再狭窄以外のPTCAの問題点−急性冠閉塞・拡張不良・elastic recoil・negative remodeling−は大幅に改善され,その手技の簡便さから使用頻度は急速に拡大した。再狭窄率低下への期待も大きかったが,STRESS[7],BENESTENT[8]では22〜32%とPTCAに比して10%程度の減少に留まり,やや肩透かしの結果であった。また抗凝固療法の併用が必須と信じられていたため,穿刺部合併症や入院期間延長の弊害が問題となった。
この時代の画期的な研究としてMUSIC[9]やColomboらの研究[10]が挙げられる。いずれもIVUS-guided stetntingの先駆けとなった研究である。IVUSを用いてより大きな内腔を得,MUSICでは再狭窄率・TLRを9.7%・4.5%にまで減じて“bigger
is better”を実証してみせた。さらに,十分な拡張と抗血小板療法とで亜急性期の血栓閉塞が予防できることも示した。BMS後療法に関しては1996年に初めてのRCTであるISARの結果[11]が公表され,圧倒的に抗血小板療法が安全であることが示された。
その後デザインの改良とも相まって,BMSはよりユーザーフレンドリーなデバイスとなったが,適応の拡大とともに弱点も浮き彫りになった。すなわち内膜増殖によるlate loss(≒50%)はいかんともしがたく,複雑病変では決してMUSICを超えることはなく,ISRという新たな「難病」を生む結果となった。この問題はAMIGO[12]に代表される“究極のbigger”となるDCA with BMSでも克服することができず,解決への模索が続けられた。
DESは1999年12月にSousaらによるシロリムス溶出性ステント(sirolimus-eluting stent: SES)の臨床応用からその歴史が始まった。シロリムスは細胞周期をG1相後半で停止させ,血管傷害に反応した血管平滑筋細胞の増殖・遊走を抑制する作用を有する。「Cypher(=Cipher:(1)
ゼロ,(2) 暗号を解く鍵」と名付けられたそのステントは,FIM[24]にて安全性・有効性が確認された後に,BMSとの最初のRCTであるRAVEL[25]において「late loss;0,再狭窄;0,TLR;0,ステント血栓症;0」という驚異的な結果でその名に応えてみせた。その後SIRIUS[26],E-SIRIUS[27],C-SIRIUS[28]へと対象病変が複雑化し複数ステントも多用され「ゼロ」の維持はできなくなったが,それでもBMSに対する圧倒的な優位性は保たれた。上記の4つのRCTに2つのnon-RCT(DIRECT[29]・SVELTE[30])を加えたLeonらの2074例でのメタ解析[31]では,late loss,再狭窄率,TLRはSES,BMSで各々0.21mm
vs 0.81mm,6.9% vs 39.8%,3.5% vs 17.1%(いずれもP<0.0001)であった。またそのサブ解析から,病変長・血管径・糖尿病・分岐部病変などBMSで論じられた因子は依然として再狭窄のキーファクターであること,(亜)急性冠閉塞はBMSと同程度の1%以下と容認できる範囲であることなどが判明した。さらに再狭窄が特にステントの近位端に多く見受けられることから,病変およびバルーンによる血管傷害部位をフルカバーするべく,brachytherapyと同様に“longer
is better”が提唱された。