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AHA2012/ISH2012特別企画] 糖尿病患者の降圧目標高齢者の治療至適血圧

Oct.2 2012

Scientific Session 19. Treating the elderly
高齢者の治療

降圧治療が行われはじめてからおよそ半世紀,虚血性心疾患や脳卒中などの死に至る急性疾患は大きく減少し,先進国では高齢化社会に突入した。現在の高血圧治療は拡張性心不全,CKD,心房細動,認知症など慢性疾患の予防を目標としたものとなりはじめている。
ISH2012の第3日目(10月2日),高齢者の降圧治療についてのセッションが行われた(Scientific Session 19 Treating the elderly:座長;日本・島田和幸氏,オーストラリア・Lindon Wing氏)。高齢者で問題の脆弱性,血行動態,低血圧,日内変動などに関する発表があった。

暦年齢は高くとも,生物学的には若い死を迎えられるように


Bryan Williams氏

高血圧は加齢に伴う疾患の重要な部分を占めている。急性疾患である虚血性心疾患や脳卒中,慢性疾患であるCKDや拡張性心不全,心房細動や認知症は,すべて高血圧との関連が知られている。
このセッションのキーノートレクチャーとして,イギリス・ロンドン大学( University College London )のBryan Williams氏は,高血圧治療の位置づけが急性疾患の予防から慢性疾患の予防に大きく変わったとした。また,氏の主要な業績の一つである中心血圧についてもふれ,大動脈起始部のコンプライアンスの低下は20代からはじまること,40代からは脈波伝播速度が上昇することなどから,より早期に降圧治療を開始することが急性疾患のみならず慢性疾患を予防することとなると述べた。健康寿命をより延ばすこと,すなわち,暦年齢は高くとも生物学的に若い死が迎えられるようにすることが,これからの高血圧治療の目標であると述べた。

「脆弱」な高齢者は増加の一途だが降圧治療のエビデンスは不足


Richard I Lindley氏

オーストラリア・シドニー大学のRichard I Lindley氏より,運動能力,筋力が低下し,日常生活にサポートが必要となっている脆弱な高齢者への治療アプローチが講演された。今日,オーストラリアにおいても冠動脈疾患や脳卒中による死亡が減少し高齢化が進んでいる。このような医療の進歩はそのまま,脆弱となってしまう高齢者を生み出すことにもつながった。しかし,主要な臨床試験は多疾患を合併した人が除外されている場合が多く,以前の臨床試験では登録患者が65歳未満に限定されていた。高齢者を対象とした臨床試験でも「元気な」高齢者が登録されていると考えられ,脆弱な高齢者での高血圧治療に関しては,臨床に応用できるエビデンスが不足しているとした。今後の臨床試験では,年齢の上限を設けないこと,合併症があっても受け入れ,それを定量化することなどを提案した。

高血圧治療は血行動態の不安定化に関連しない


Ruth Teh氏

起立性低血圧と食後低血圧は,高齢者の転倒の主要な原因の一つである。オーストラリア・キャンベラ病院のRuth Teh氏よりこのような血行動態の不安定化と高血圧の関連が報告された。転倒予防外来を受診した患者の36%が高血圧を有しており,高血圧を有している人は非高血圧の人に比べて,起立性低血圧を合併する頻度が高い傾向が見られた。しかし,治療下高血圧は血行動態の不安定化や転倒とは関連せず,高齢の転倒患者において降圧薬治療を控える必要はないと結論した。

降圧治療患者における遅い朝の低血圧は高頻度でみられる


Naftali Stern氏

降圧治療を受けている患者は,遅い朝,正午前の時間帯に低血圧を呈することがある。血管保護の観点からはより積極的な降圧治療が勧められるが,臨床試験で積極的な降圧が必ずしもよい結果をもたらさない一因は,この低血圧にあると考えられる。イスラエル・テルアビブ大学のNaftali Stern氏は,24時間自由行動下血圧を用いて,高血圧患者における低血圧の発症頻度,患者背景を検討した。その結果,遅い朝の低血圧は,高血圧未治療患者の6.4%,降圧薬治療受療者の17.9%にみられた。降圧薬治療受療者で遅い朝の低血圧を発症した人は,より高齢で,女性が多く,日中の血圧が低く,朝の降圧薬服用数が多かった。降圧治療下の遅い朝の低血圧が2割近くに上ることからStern氏は,高血圧治療においてはこのことに十分な留意が必要とした。

高齢になると血圧日内変動が減少する


笠巻祐二氏

血圧に日内変動があることはよく知られているが,加齢と日内変動を検討した研究はこれまでなかった。日本大学の笠巻祐二氏は,寿命が短いことで知られる中国新疆・巴里坤(バリクン)のカザフ族の小児(9–10歳),中年者(30–35歳),高齢者(65–70歳)を対象に24時間自由行動下血圧測定を行い,同一民族内での加齢による血圧日内変動の変化を検討した。その結果,日中と夜間の血圧差は小児で最も大きく,高齢者でもっとも小さく,non-dipperの割合も,小児で24.4%,中年者で43.5%,高齢者で78.6%であった。また尿中カリウム排泄量はnon-dipperの高齢者において低かった。笠巻氏は血管の弾性の違いが血圧日内変動に影響しているものと考えられるとし,また高齢のdipperとnon-dipperのカリウム排泄量の差から,血圧コントロールにカリウムが重要な役割を果たす可能性を示唆した。

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