2019.July
第1回 ペーシング治療東京女子医科大学医学部 循環器内科学 庄田 守男 先生 さる2019年3月末, 日本循環器学会(JCS)学術集会において「JCS/JHRS(日本不整脈心電学会)不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)」1) が公表された。同ガイドラインは2001年の初版に始まり, 2006年の第2版, 2011年の第3版に引き続き, 今回で約8年ぶり3回目の改訂になる。ところで, 最近の世界的なガイドラインのトレンドは「細分化」である。例えば, アブレーション治療に関する「心房細動」「心室頻拍」, デバイス関連の「ICD」「S-ICD」「WCD」「遠隔モニタリング」「リードマネジメント」は, すべて別編集である。一方, 今回の「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)」はすべての項目を網羅しているため, 欧米のガイドラインと比較すると各項目はコンパクトな印象が否めない。もっともこれは各項目の字数制限が厳格であったことによるが, それでもなおいくつかの新規重要項目も追加された。ペーシング治療に関しては, 「遠隔モニタリング」, 「MRI対応機器」, 「リードレスペースメーカ」, 「ヒス束ペーシング」, 「経皮的リード抜去術」についての記載が該当する。本稿では, これら新規で追加された重要項目について, 以下に概説する。1. 遠隔モニタリング最近のペーシングデバイスは, 大部分が遠隔モニタリング対応となり, バッテリーの状態, リード情報, ペーシング設定, 心内波形および閾値, 不整脈検出および治療状況, 心拍数ヒストグラムや身体活動度の生体情報などがモニタリングできる。これらの情報を参考にすると, 異常の早期診断, 入院期間の短縮, 生命予後改善が得られるとのエビデンスがあることから, 推奨レベルはクラスI, 「院内ワークフローを構築した病院が行うCIED患者の遠隔モニタリング」, クラスIIaとして「すべてのCIED患者の外来管理に遠隔モニタリングを用いる」とした。すなわち, 遠隔モニタリングは全てのペーシングデバイスにおける標準診療と位置づけられたのである。2. MRI対応機器「ペースメーカ患者のMRI撮像は不可能」という常識が, 日本では2012年10月にくつがえされた。その後, この機能はICD, CRT-Dにも搭載された。MRI撮像の条件は, ①デバイス+全リードシステムがMRI対応, ②その他の未使用リードなどが体内に残存しないことであり, 撮像施設には厳格な基準が定められた。推奨レベルはクラスIIaとして「条件付きMRI対応CIEDの患者に対し, 手順に従った必要最小限のMRI撮像を行うこと」とした。3. リードレスペースメーカ世界規模ではメドトロニック社のMicra, アボット社のNanostimという2種類のリードレスペースメーカの臨床治験が行われたが, 後者はバッテリーの不具合のため撤回され, 前者のみ2017年9月から使用が開始された。リードレスペースメーカは感染, 血腫, 疼痛などのポケット関連合併症がなく, また, リードアクセスによる制限がないため, 大腿静脈より心臓にアクセスできれば植込みが可能である。ただし, 現時点では右心室ペーシングのみに対応し, AAI, DDD, CRTペーシングは不可である。MRIや遠隔モニタリングにも対応する。植込み時の合併症発生率は通常のペースメーカと遜色ないが, 心タンポナーデなどの合併症が発生すると外科的介入の必要性が高く, 死亡例も報告されている。ペーシングモードの制限, 合併症問題, 長期成績などエビデンスの集積は十分ではなく, 今回のガイドラインでは推奨・エビデンスレベルは示されず, 本文中での紹介にとどめられている。4. ヒス束ペーシング従来の右室ペーシングより生理的な心室内伝導様式を維持できるヒス束ペーシングは, 約20年前から報告されているが, リードシステムの進歩と心機能維持の観点から最近多用されるようになり, 今回のガイドラインに取り上げられた。しかし, これまでの報告でも植込みの不成功, 高いペーシング閾値, 低い心内心室波高, 心房波オーバーセンシング, 房室伝導障害の誘発などの問題点が指摘されているため, 今回のガイドラインではリードレスペースメーカと同様に本文中での紹介にとどめられている。5. 経皮的リード抜去術ペーシングデバイス感染症はリードを含めた全システムを摘出することが唯一の治療法である。しかし, 日本では経皮的リード抜去手術用機器が長年認可されず, ようやく2008年にエキシマレーザシースが薬事承認され, 2010年に保険診療として収載された。今回の改訂版では, 2017年に公開された米国不整脈学会のリードマネジメント・エキスパート・コンセンサス2) を基にして,経皮的リード抜去術のガイドラインを示した。リード抜去術の適応は感染性・非感染性に大別され, 前者は原則的にデバイスシステムの全抜去が推奨される一方, 後者は病態に応じて推奨クラスが異なる。非感染性適応には, 慢性頭痛, 血栓塞栓症・血管に関する諸問題, その他(残存リードによる不整脈, 悪性腫瘍治療やMRI検査の妨げになる場合, 過剰リード本数, 将来を考慮してのリード抜去など)がある。未使用リードの残存は感染症, 血管閉塞, 血栓症, 弁疾患などのリスクであり, 多数リードが長期留置された場合には抜去術が難化するなど, 状況によってはリード抜去のリスクを凌駕する。そのため, 将来を見越したリード抜去術の適応もクラスIIa, IIbで認められた。
遠隔モニタリングのデータに基づいたスマートフォン上のpatient applicationが今後の標準仕様になる。これにより患者は個人のデバイスデータ参照、医療側との双方向通信が可能になる。デバイス患者のMRI撮像は非対応機器であっても一定の条件を満たせば可能であるという報告があり、日本での適応も徐々に変化する可能性がある。リードレスペースメーカおよびヒス束ペーシングは今回のガイドラインでは本文中での言及にとどめられたが、今後のエビデンス蓄積により推奨レベルが整備される。経皮的リード抜去手術の普及は著しく、今後はデバイス感染管理だけではなく交換手術やデバイスアップグレード時の適用が拡大する。
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