2019.September
第3回 心臓再同期療法(CRT)東京大学大学院医学系研究科先進循環器病学 藤生 克仁 先生 はじめにわが国の心臓再同期療法(Cardiac Resynchronization Therapy: CRT)に関する最新のガイドラインは, 2018年に刊行された「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」1) と, 2019年3月に刊行の「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)」2) として発表されている。いずれのガイドラインにも循環器医師がCRTの適応を検討する際に最も参考にするCRTの推奨度がほぼ同様に記載されており, どちらを参照してもよい。一方で,CRTのエビデンスの歴史や, 推奨度がどのように決定されたかについての詳細については, 「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)」(以下, 「非薬物治療ガイドライン(2018)」)にわかりやすく記載されており, 心不全診療に携わる医師であれば不整脈専門医でなくても、同ガイドラインのP. 43~48まで一読することをお勧めしたい。本稿では, 最新のCRTに関するガイドラインをどのように解釈し, 適応を決定すべきかに焦点をしぼり, 私見も含めて解説する。最適な薬物療法がされている, かつNYHAⅡ度以上の心不全はCRTを考慮まず, CRTを考慮するのは, 最適な薬物療法がすでに行われていて, かつNYHA心機能分類のⅡ度以上の心不全の症例である。このような症例に遭遇した際には, 必ず「非薬物治療ガイドライン(2018)」(P. 48 表37)を参照すべきである。わが国のCRTのガイドラインでは, これまでNYHA心機能分類別での適応の評価のみであったが, 同ガイドラインの表37では, もう少し多くの情報からCRTの適応を詳細に判断するようになっている。その際に必要な項目として,①NYHA心機能分類,②LVEF,③QRS波形(左脚ブロックか,それとも非左脚ブロックか),④QRS幅,⑤心房細動の有無をチェックし,検討することによって,CRTの適応があるかどうか,さらにその推奨クラスを一目瞭然に判断することができるようになっている。徐脈に対してペースメーカ/ICDの適応がある際, CRTにするかどうかは別表で判断これまで述べてきたCRTとは, 薬物療法では治療が不十分な心不全に対してCRTのデバイスを植え込むこと, すなわち心不全そのものに対するCRTの適応のガイドラインであった。一方で, 房室ブロックや致死性不整脈などによってペースメーカあるいはICDの適応があり, これから植込み術を予定している, あるいはすでにペースメーカ/ICDが植え込まれている患者が心不全を呈してきたという場合にもCRTの適応を考えることがある。「非薬物治療ガイドライン(2018)」では, このようなペースメーカやICDの適応がある, もしくはすでに植込み後の症例におけるCRTの適応を別途定めている(同ガイドライン P. 47 表35)。右室ペーシングによって心房細動や心不全が増加することが分かっている。さらに右室単独ペーシングに比較して, CRTが臨床的に有効なことが証明されたことにより, ペースメーカやICDの植込み予定患者は, 将来的な心機能の悪化等を考慮して, NYHA心機能分類I度の患者においても, CRTの適応があることが明記されており, この点に留意する必要がある。さらに, ペースメーカ/ICDがすでに植え込まれている患者で, 右室ペーシングに依存の心不全患者をCRTにアップグレードさせた際に心不全改善効果が報告されたことを受けて, CRTへのアップグレードもclass IIaと適応となっている。このようにペースメーカ/ICDの適応患者においては, たとえ心不全症状がなくてもCRTの適応がある場合があるため, この別表(同ガイドライン P. 47 表35)の存在を知り, 適切に参照することが必要である。CRTノンレスポンダーの低減に対する対策さて, CRTを行っても効果が十分でないノンレスポンダーが3~4割存在することがCRTへの疑念の一つである。一方で, その原因がCRTを植え込んだ後に行うべき設定等で改善できるという報告が多くなされている。すなわち, CRTは植え込んだだけでは治療として完結しないのである。「非薬物治療ガイドライン(2018)」では, CRT植込み後の適切なプログラミング, ペーシング率向上, ペーシング位置の変更, 多極ペーシングの検討などを行うべきと明記されている。さらに, 特に心房細動症例は, CRTの効果が低くなりがちであるが, その原因はペーシング率の低下といわれている。98%以上(できれば100%)のペーシング率を目指すこと, それが達成できない場合は, 房室結節アブレーションを考慮するなど, ガイドライン上で推奨されたことを考慮しながらCRTの植込み後の医療を怠惰なく行うことが必要である。心不全の最適な薬物治療に対する考え方冒頭にも述べたが, CRTは最適な薬物治療でも効果不十分な心不全に対して行う治療法である。しかし, 「最適な薬物療法とは何か」に対する答えが明確でないと常々感じていた。心不全薬物治療においては, 長期にわたってβ遮断薬を漸増させていくが, どの時点でCRTを考慮してよいかが議論となっていた。「非薬物治療ガイドライン(2018)」では, 最適な薬物療法について, 心不全薬物療法を開始して3ヵ月以降であれば,β遮断薬等が最大用量に達していなくても, CRTを考慮し始めてもよいとしている。これはCRTの導入後にβ遮断薬などの増量が可能になる症例があるためである。したがって, 心不全薬物療法が最大用量に達してから初めてCRTを考慮するというのは, 適応のタイミングとしてはやや遅いと考えるべきである。QRS幅120~130 msの左脚ブロック症例に対するCRTも推奨最新の欧州のガイドライン3) やカナダのガイドライン4) では、QRS幅120~129 msの左脚ブロック症例に対するCRTは効果が低いとの見解から推奨クラスはClass III, すなわち患者のメリットがないと判断されている。しかし、わが国の「非薬物治療ガイドライン(2018年)」では, いくつかの臨床エビデンスをもとに, QRS幅は130ms以上の方がよりエビデンスがあるとしながらも, CRT適応のQRS幅の下限は120ms(Class IIb)としている。これは, 日本人の体格やEchoCRT Trialから, 女性かつ小さい左室容量症例への有効性の報告を反映してのことである。このサブ解析の内容をあえて批判的に読むならば, 男女別に解析し, 四分位点で集団を分類したものを用いて何とかCRTの効果を検出している点や, 女性で効果があった群の内訳は, CRT症例での心不全改善割合が22人中13人, 対照群であるCRTなしでの改善割合が24人中4人と、エビデンスとしては明らかにパワーが弱いと感じる。欧州やカナダのガイドラインとわが国のガイドラインとの差異を含めた, わが国の統一した見解や結論はなく, いずれにしても今後のこのレンジの導入症例での結果は注意深くみていく必要がある。しかし, QRS幅120~130msの間でもCRTによる心不全改善効果がある症例は存在しており, わが国のガイドラインではこれらの患者に対するCRTの適応の余地を十分に残している点で, CRTの利益を享受できる患者の増加につながると考える。わが国におけるCRTのunderuseについてわが国のCRTは本来適応がある患者に適切に提供できていない可能性(underuse)がある。わが国と米国の心不全の背景はやや異なるとはいえ, 米国のCRT導入率は心不全患者の1.00%/年であるのに対し, わが国は0.26%/年と4分の1程度にとどまっており, 近年さらに減少傾向でさえある。今回の「不整脈非薬物治療ガイドライン」の改訂によって明確な適応基準が示され, さらにこのガイドラインが心不全・デバイス治療に携わる医師に行き渡ることが重要である。もう一点, ガイドラインでの推奨度としてClass I, IIa, IIbのグレードをどのように医師が解釈し, 患者に伝えるかが大切である。特にClass IIbはガイドラインの日本語による説明には, 「有用性、有効性がそれほど確立されていない」とのみ記載されている。この表現は非常にネガティブな印象がある。この推奨クラス分類は, 米国心臓協会(AHA)/米国心臓病学会(ACC)/米国不整脈学会(HRS)ガイドラインで定めたものであるが, もともとの定義は, “Class IIb, Benefit ≥ Risk, Procedure/Treatment may be considered”であり、本来は日本語での表現ほどネガティブではない。Class IIbであっても, CRTの恩恵を受ける患者は十分存在していると思われ, Class IIbであっても十分にCRTを考慮すべきである。最後にCRTの適応評価は, この「非薬物治療ガイドライン(2018)」を参照しさえすれば非専門医でも容易に可能である。常にガイドラインを参考にすることで, 治療効果を見込める正しい適応基準を順守し, またCRTのunderuseを減らすことで, 心不全の予後改善に寄与することが可能である。
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